MtFの女性ホルモン治療薬~相乗効果のある組み合わせを徹底解説~

ホルモン

女性化目的での女性ホルモンの役割と効果

女性ホルモンの役割と効果のイメージ画像

男性が行う女性ホルモン療法は、一般的に「性別適合治療(Gender-affirming hormone therapy)」の一環として行われるもので、身体的性質を女性化させることを目的としています。
これは主に、トランスジェンダー女性(出生時に男性と割り当てられたが、自認する性が女性)が女性ホルモン療法を行います。
下記記事では、女性ホルモンの役割と効果について、わかりやすく解説していきます。

女性ホルモンとは?

女性ホルモンって耳にしたことはありますか?
女性ホルモンの主成分である「エストロゲン」は、女性の身体的特徴を形成するうえでもっとも重要なホルモンになります。
この女性ホルモンを適切に投与することで、身体の女性化を促進することができます。

女性ホルモンの主な効果

女性ホルモンを投与した場合に見られる主な効果として以下の3点が挙げられます。

①皮膚の変化

肌質が柔らかくなり、毛穴が目立ちにくくなります。とくに体毛が薄くなる事で変化を感じ取れます。

②体型の変化

脂肪の付き方が女性的になり、胸部が発達してきます。それに合わせて筋肉量が減少してきます。

③その他の変化

感情面がより豊かになります。皮脂分泌が減少し、体臭も変化してくるようになります。

女性ホルモン投与方法の選択

投与方法は大きく3種類あり、それぞれ特徴が異なります。

①経口薬

最も一般的な方法です。服用が簡単ですが、肝臓への負担に注意が必要です。

②貼付剤・ジェル

肝臓への負担が少なく、安定した血中濃度を維持できます。

③注射剤

効果は確実ですが、医療機関での処置が必要です。

注意すべき点として、必ず医師の指導のもとで開始する必要があります。
定期的に検査を行うことが不可欠であり、副作用の可能性についてはあらかじめ理解しておく必要があります。
また自己判断での用量調整は危険ですので避けるようにしましょう。
女性ホルモン療法は、適切な医学的管理のもとで行うことで、望ましい効果を得ることができます。
ただし、女性ホルモン療法は効果の現れ方には個人差があり、効果発現には時間がかかります。
焦らず継続的な治療を心がけることが大切です。

エストロゲン(卵胞ホルモン)

エストロゲンって何?

エストロゲンは、女性らしい身体的特徴を作り出す重要なホルモンです。
思春期の女性の体の変化を司る主役とも言えます。

エストロゲンの主な効果

エストロゲンを男性に投与した場合どのような効果が得られるのでしょうか?

①お肌への効果

エストロゲンには、肌を滑らかにする作用があります。
投与を始めると、徐々に肌のきめが細かくなり、しっとりとした質感に変化していきます。
また、体毛も徐々に薄くなっていく傾向がみられます。

②体型への影響

脂肪の付き方が変化し、より女性らしい体つきに変わっていきます。
特に、ヒップラインの丸み・胸の発達 ・ウエストのくびれなどが特徴的な変化として現れます。
この様に見た目を大きく変化させる力があるのがエストロゲンです。

注意が必要なポイント

副作用のリスクがあります。特に以下の点に注意が必要です。

①ホルモン剤はとくに血栓症のリスク

血栓により詰まった血管によりエコノミークラス症候群と言った症状を発症する可能性があります。

②肝機能への影響

特に疲れやすい、だるいなどが続くようであれば一度検査してみましょう。

安全に使用するためには定期的な検査が欠かせません。
副作用の症状を理解しつつ、生活習慣の改善も併せて行う事が必要になります。

プロゲステロン(黄体ホルモン)

男性が女性の体になるために必要不可欠なホルモンの一つに、プロゲステロン(黄体ホルモン)があります。
プロゲステロンはエストロゲンと並び、女性らしさを形作る重要な役割を担うホルモンです。

プロゲステロンとは?

黄体ホルモンとも呼ばれるプロゲステロンは、女性の体で自然に分泌されるホルモンです。
月経周期や妊娠・出産に深く関与するだけでなく、女性特有の身体的特徴の形成にも重要な働きをします。

プロゲステロンの主な作用と特徴

プロゲステロンを男性に投与した場合どのような効果が得られるのでしょうか?

①乳房への影響

エストロゲンと協調して働き、乳腺組織の成長を促進します。
自然な胸の発育には、この2つのホルモンのバランスが鍵となります。

②精神面への効果

情緒の安定化に寄与し、質の良い睡眠を促します。また、ストレス軽減効果も期待できます。

③身体的変化

骨の健康維持をサポート、女性らしい体型形成への関与、体内の水分調節機能などがあります。

使用上の注意点としては、個々の状態に応じた適切な投与量の設定が不可欠です。
定期的な健康チェックも欠かせません。
想定される副作用として、眠気の増強、疲労感、気分の変動、体重の増減などがあります。
プロゲステロンを効果的に使用する為には、規則正しい服用を行うことが何より大切です。

抗アンドロゲン

男性から女性への性別適合において、抗アンドロゲン薬は非常に重要な役割を果たします。
男性ホルモンの働きを抑制することで、より効果的な女性化をサポートする医薬品になります。

抗アンドロゲン薬とは?

男性ホルモン(テストステロン)の作用を抑える医薬品です。
女性化ホルモン療法では、エストロゲンと併用することにより相乗的な効果を得ることができます。
単体で治療しようと思った場合抗アンドロゲンでは思ったほどの効果は得られません。
具体的にどのような効果が見られるのでしょうか?

抗アンドロゲンの主な効果

①男性的特徴の抑制

外見として男性的特徴である体毛の成長を抑える働きがあります。
その他、薄毛の進行を防いだり、筋肉量が減少していく、皮脂分泌が減少するなどが見られるようになります。

②精神面への影響

抗アンドロゲン薬をとうよすると、性欲の低下、攻撃性の減少、穏やかな気分の促進が内面的な部分として見られます。

③身体的変化のサポート

抗アンドロゲン薬は身体的変化とくに女性化の促進、男性型脱毛の改善、にきびの減少に対して効果を発揮します。

この様にMtFにおいて男性ホルモンは必要不可欠なホルモンですが実際に女性の体を形成するためにはやはり女性ホルモンが必須と言えます。
起こりうる副作用として疲労感、めまい、肝機能への影響、電解質バランスの変化等が見られます。
効果を最大限に引き出すためには、規則正しい生活、バランスの良い食事、適度な運動、十分な睡眠はかかせません。

女性ホルモン剤の併用について

女性ホルモン剤の併用についての画像

女性ホルモン剤は単剤での使用を行うよりも、適切な併用による治療の方が、より相乗的な効果が期待できます。

基本的なホルモン剤の種類

まずはどの様なホルモン製剤が販売されているのか、エストロゲン・プロゲステロン・抗アンドロゲンそれぞれについて見ていきましょう

エストロゲン

女性ホルモンの種類投与経路剤形有効成分製品名取扱い商品
エストロゲン製剤経口錠剤結合型エストロゲンプレマリン錠0.625mgプレマリン
17β-エストラジオールジュリナ錠0.5mg
エストラジオール錠0.5mg「F」
取扱いなし
エストリオールエストリオール錠1mg「F」取扱いなし
経皮貼付剤17β-エストラジオールエストラーナテープ0.09mg/0.18mg/0.36mg/0.72mg取扱いなし
ジェル剤17β-エストラジオールル・エストロジェル0.06%
ディビゲル1mg
オエストロジェル
皮下注射剤エストラジオール吉草酸エステルペラニンデポー筋注5mg/10mg取扱いなし

プロゲステロン

女性ホルモンの種類投与経路剤形有効成分製品名取扱い商品
黄体ホルモン製剤経口錠剤天然型プロゲステロンエフメノカプセル100mgウトロゲスタン100mg
合成型酢酸メドロキシプロゲステロンメドロキシプロゲステロン酢酸エステル錠2.5mg/5mg/200mg「F」
プロベラ錠2.5mg
プロベラ
ジドロゲステロンデュファストン錠5mgデュファストン
経皮坐剤レボノルゲストレルミレーナ52mg取扱いなし
皮下注射剤エストラジオール吉草酸エステルプロギノン・デポー筋注10mg取扱いなし

抗アンドロゲン

男性ホルモンの種類投与経路剤形有効成分製品名取扱い商品
抗アンドロゲン薬経口錠剤スピロノラクトンアルダクトンA錠25mg/50mgスピロノラクトン
酢酸シプロテロンAndrocur
Diane
シテロン
皮下貼付剤リュープロレリン酢酸塩リュープリン注射用キット1.88mg/3.75mg取扱いなし
ゴセレリン酢酸塩ゾラデックス1.8mgデポ取扱いなし

これら医薬品を使用する際、どのように組み合わせたら最も相乗効果が狙えるのでしょうか?
基本となる治療の組み合わせは、「エストロゲン+抗アンドロゲン薬」が最も一般的で効果的な組み合わせになります。
エストロゲンによる女性らしさの変化と、抗アンドロゲン薬による男性ホルモンの抑制が、相乗効果を発揮し理想的体系を形作ります。
具体的な処方例として、エストラジオール(エストロゲン製剤)と、スピロノラクトンまたは酢酸シプロテロン(抗アンドロゲン薬)が挙げられるため、それぞれを簡単に解説していきます。

①エストラジオール+スピロノラクトン

最も一般的で安全性の高い組み合わせです。
エストロゲンによる女性らしさの変化と、スピロノラクトンによる男性ホルモン抑制が相乗的に働きます。

②エストラジオール+酢酸シプロテロン

より強力な抗アンドロゲン作用が特徴で、体毛の抑制効果が高いとされています。

③エストラジール+GnRHアゴニスト

テストステロン産生を根本的に抑える効果があり、より完全な女性化が期待できる方法ですが、費用が高額です。
金額を気にしなければ相乗効果としては期待以上のものが得られます。
GnRHアゴニストにはゾラデックス1.8mgデポ、リュープリン注射用キット1.88mg、ナサニール点鼻液0.2%、ブセレリン点鼻液0.15%「F」、スプレキュア点鼻液0.15%等が販売されています。

④上記の組み合わせ+プロゲステロン

さらに補助的な併用としてプロゲステロンがあります。
乳房発達促進と気分の安定化が期待できます。
開始時期は通常、ホルモン治療開始から1~2年後が推奨されています。

これらの治療を行うにあたって大切なことは、段階的な用量調整が重要になります。
個人差が大きいため、焦らず継続する様にしましょう。
ホルモン治療は生涯にわたる取り組みです。
永遠に続けなければいけない治療法であるがゆえ、定期的な検査も必要になることを忘れないでください。

ホルモン療法の副作用とリスク管理

副作用の画像

ここからは、MtF(Male to Female)の方々が受けるホルモン療法について、副作用とリスク管理を分かりやすく解説します。

主な副作用について

①血栓症(けっせんしょう)のリスク

女性ホルモン治療で最も注意すべき副作用は血栓症です。血栓症とは血が固まって塊となり血管を詰まらせる病気です。とくに喫煙者や35歳以上の方は、リスクが高まります。
下肢の痛みやむくみ、突然の息切れなどの症状に要注意です。

②肝機能への影響

エストロゲン製剤は肝臓で代謝されるため、肝機能に負担がかかる可能性があります。定期的な肝機能検査が必要です。
疲れやすい・だるいなどが毎日感じるようになった場合には要注意です。

③精神面への影響

ホルモンバランスの変化により、気分の浮き沈みや不安感が生じることがあります。
これは自然な反応ですが、深刻な場合は医師に相談が必要です。

効果的なリスク管理

最も効果的なリスク管理として定期的に健康診断を受けることが挙げられます。
最低でも年1回血液検査を行うことで自己管理を行うことが可能です。
生活習慣の改善もホルモン療法を続けるうえで重要な要素の一つと言えます。
禁煙、適度な運動、バランスの良い食事、十分な睡眠は基本的改善事項になりますのでもう一度見直しをしてみると良いかもしれませんね。
調子が悪い場合は様子を見ておらず思い切って病院を受診することを忘れないでください。
処方された医薬品は用法・用量を守って服用し、体調の変化は見逃さないようにすることが大切です。
自己判断での用量調整は危険ですので避けるようにしましょう。
飲み忘れたときは、気が付いたときに直ちに1回分服用しましょう。
ただし、次回の服用時間が近い場合には飛ばして次回分より再開すること。
決して2回分を一度に服用しない様注意しましょう。
もし万が一、以下の症状が出た場合は、すぐに病院を受診しましょう。

病院の受診が必須な症状

  • 激しい頭痛
  • 胸の痛み
  • 呼吸困難
  • 下肢の腫れや痛み
  • 原因不明の吐き気

体調の変化には個人差があり、すべての方に同じ副作用が現れるわけではありません。
しかし、リスクを理解し、適切な管理を行うことで、より安全な治療が可能になります。

女性ホルモン治療に関するよくある質問

女性ホルモン治療に関するよくある質問画像
Q
女性ホルモンは、一生続けないといけませんか?
A

性適合手術後の女性ホルモン補充は、生涯にわたって継続することが推奨されます。
その理由は、手術後の体内では性ホルモンがほとんど産生されず、ホルモンバランスを外部から補う必要があるためです。
とくに50歳前後までは、定期的な注射による補充が望ましいとされています。
注射を中断すると、更年期障害のような症状が現れたり、長期的には骨粗鬆症のリスクが高まる可能性があります。
定期的な骨密度検査や血液検査を受けながら、適切な投与量を維持することが大切です。

Q
ホルモン療法によりバストはどの位変化しますか?
A

女性ホルモン治療を始めると、徐々に胸の膨らみを感じられるようになります。
早い方で3か月程度から変化が現れ始めますが、最終的なサイズはAカップ程度にとどまることが一般的です。
期待されるほど大きくならないことも多いため、最初から現実的な目標を持つことが大切です。
個人差が大きく、誰もが理想的なサイズになれるわけではありません。

Q
女性ホルモンを打っていると、血栓症になることがあると聞きましたが、なにか予知できる検査はありますか?
A

残念ながら、血栓症を事前に予知できる確実な検査方法はありません。
しかし、早期発見のために知っておくべき症状があります。
主な注意すべき症状は、ふくらはぎの痛みや息苦しさです。
これらの症状を感じたら、すぐに病院を受診し、女性ホルモン治療中であることを必ず伝えてください。
予防としては、十分な水分摂取(1日2リットル程度)を心がけ、脱水を防ぐことが大切です。

まとめ

女性ホルモン治療は、MtFの方々の身体的・精神的な性別移行において重要な役割を果たします。
治療には主に3種類のホルモン剤が使用されます。
最も有名なのが「エストロゲン(女性ホルモン)」になります。
女性らしい体つきへの変化を促進する中心的な役割を担います。
皮下脂肪の増加や肌の柔らかさの変化などが期待できます。
続いてあまり有名ではないかもしれませんが重要なホルモンの一つである「プロゲステロン(黄体ホルモン)があります。
エストロゲンの効果を補完し、より自然な女性化を促進します。
とくに乳房発達への影響が注目されています。
最後に相乗効果を期待するために最も必要なホルモン、それが「抗アンドロゲン薬」です。
男性ホルモンの働きを抑制し、男性的特徴の抑制に効果があります。
これらの薬剤は、単独使用よりも適切な組み合わせによって、より効果的な結果が期待できます。
ただし、副作用のリスクもあるため、あらかじめ副作用について理解しておく必要があります。
また、治療効果には個人差があり、理想とする変化が得られるまでには一定の時間が必要です。
定期的な健康診断と血液検査を行いながら、安全に治療を継続していくことが重要になります。
最後に、これらの治療は生涯にわたって継続する必要がある場合が多いため、長期的な健康管理と医療費についても考慮する必要があることを忘れてはいけません。

出典

エナ女性クリニック
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DRUG: 酢酸シプロテロン
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