イベルメクチンって劇薬なの?飲んでも大丈夫?劇薬の定義とは?

薬・漢方薬・市販薬

劇薬の定義とは?

劇薬の定義とは?の画像

劇薬とは、薬機法(旧薬事法)に基づいて「劇性が強い」と厚生労働大臣が指定した医薬品のことを指します。
一般的な医薬品よりも強い作用を持つため、取り扱いに注意が必要とされています。
薬局やドラッグストアで見かける機会はあまりありませんが、劇薬には容器や包装に「劇」の文字が白地に赤枠・赤色で表示されています。
この表示は法律で義務付けられており、一目で特別な注意が必要な薬剤だと識別できるようになっています。
医薬品が劇薬に指定される主な基準は、その急性毒性の強さです。
例えば、動物実験で経口投与により300mg/kg以下の量で致死量に達する場合などが該当します。
また、安全域が狭いもの(効果が期待できる量と中毒になる量が近いもの)や、強い薬理作用を示すものも劇薬に指定されることがあります。
劇薬には以下のような厳格な規制が設けられています。

劇薬の厳格な規制

①他の医薬品と区別して保管・陳列する義務
②14歳未満の子どもへの販売禁止
③購入者の氏名、住所、使用目的などの記録保存(2年間)
④開封販売の制限

劇薬は有効性が高い反面、慎重な取り扱いが求められる医薬品です。
病院で処方される場合は医師や薬剤師の指示に従い、保管は子どもの手の届かない場所で、他の薬と区別して行うことが大切です。
薬の力を正しく理解し、安全に利用しましょう。

劇薬を飲んでも大丈夫なの?

私たちは多くの劇薬によってさまざまな疾患を治療しています。
「くすりはリスク」ではありますが、劇薬も使い方によっては良い治療薬になるのです。
たとえばイベルメクチンは国内では「ストロメクトール」という商品名で流通しており、れっきとした劇薬に分類されています。
劇薬指定は薬の危険性を示す重要な目安です。
これは「慎重に取り扱うべき薬剤」という医療現場からの警告と考えるべきでしょう。
指示通り服用することで腸管糞線虫症(ちょうかんふんせんちゅうしょう)や疥癬(かいせん)の治療が行えます。
しかし、もし指示を無視して服用した場合には、重大なリスクが伴います。
「コロナに効く」といった情報を見て個人輸入する方もいますが、現時点では日本ではコロナへの使用は認められておりません。
劇薬を服用する場合、たとえ医師から処方された場合であっても、以下の点に注意が必要です。

処方された劇薬の注意点

①用法・用量を厳守する(「多く飲めばよく効く」は間違い)
②他の薬との相互作用があるため、服用中の薬はすべて医師に伝える
③アルコールとの併用は避ける
④妊娠中・授乳中の方は特に慎重に判断する必要がある

「先生、この薬大丈夫ですか?」と遠慮なく聞くことが重要です。

劇薬に指定されているということは、その薬の危険性と有効性のバランスを医師が慎重に判断する必要があるということです。
自分で判断するには専門知識が足りないことを謙虚に受け止め、医師の指示に従うことが、自分の健康を守る最善の道です。

劇薬と毒薬の違いとは?

劇薬と毒薬の違いとは?の画像

劇薬と毒薬の一番の大きな違いは、その危険性のレベルにあります。
毒薬は劇薬よりもはるかに危険度が高く、より厳重な管理が必要な医薬品になります。
具体的に違いを見ていきましょう。
毒薬は、少量でも人体に重大な影響を与える可能性がある強い毒性を持つ薬品です。
病院で処方される薬では例えば不整脈を治療する薬であるアミオダロン(商品名:アンカロン)や、排尿困難を治療する薬であるジスチグミン(商品名:ウブレチド)などが該当します。
過去には調剤ミスした例としてマグミット(下剤)投与すべき患者さんに誤ってウブレチドが投与され死亡した例もありました。
(1)埼玉県薬剤師会

一方の劇薬は、毒薬ほどではないものの、やはり慎重な取り扱いが求められる薬品です。
日常生活では、強い鎮痛剤であるジクロフェナクナトリウム(商品名:ボルタレン)や高血圧症治療薬であるアムロジピン(商品名:ノルバスク)などが劇薬に該当しています。
血圧の薬も誤って服用すれば体調を崩すかもしれませんが、現時点で死亡に直接つながる事例は報告されていません。
危険度と言う点に関してこのくらいの違いがあるのです。

表示においても明確な違いがあります。
日本では薬機法と呼ばれる法律において、毒薬と劇薬の識別を容易にするため、明確な表示ルールが定められています。

毒薬黒地に白枠、白字で「毒」の文字と品名を表示すること
劇薬白地に赤枠、赤字で「劇」の文字と品名を表示すること

この違いは一目で分かるよう工夫されています。
また安全管理の観点からも両者には違いがあります。

毒薬必ず鍵のかかる専用保管庫で管理すること
劇薬他の薬と区別して保管するが、必ずしも施錠は不要です

一般の方が日常で使う市販薬(一般用医薬品)には、毒薬も劇薬も含まれていません。
これらは主に医療現場で、医師や薬剤師など専門知識を持つ人が取り扱う医療用医薬品(特に抗がん剤など)に指定されています。
適切に使用すれば患者さんの治療に役立つ重要な薬ですが、その危険性から厳格な管理が求められているのです。
処方薬として劇薬を受け取った場合、薬剤師から特別な注意事項の説明があるはずです。
受け取った後は指示された内容を必ず守り、安全な場所に保管するようにしましょう。

イベルメクチンは何故劇薬指定されているの?

イベルメクチンが劇薬に指定されている理由は、その毒性の強さが主な理由です。
毒性の強さはどのようにして決められているのでしょうか?
それは動物実験において50%致死量を示す「LD50」の値によって決められています。
イベルメクチンはLD50の数値が劇薬指定の基準値内に収まっているため、毒薬ではなく劇薬として取り扱いに注意が必要な医薬品に分類されているのです。

LD50って何?って思うかもしれませんね。
薬には効果がある一方で、毒性も持ち合わせています。
その毒性の強さによって「普通薬」「劇薬」「毒薬」と区分けされています。
この区分けの基準となるのが「LD50」という値になるのです。
LD50とは、実験動物(主にマウス)に薬を投与したとき、半数が死亡する量のことを指します。
つまり、この値が小さいほど少量で強い毒性を示す危険な薬ということになります。
劇薬の基準は、マウスへの皮下注射の場合、体重1kgあたり200mg以下のLD50を持つ薬です。
経口投与では300mg以下が目安となります。
一方、毒薬はさらに強力で、皮下注射で20mg以下、経口で30mg以下という基準があります。
つまり分かりやすく表すと以下の通りになります。

内服(経口)皮下注射静脈注射
毒薬<30mg/kg<20mg/kg<10mg/kg
劇薬<300mg/kg<200mg/kg<100mg/kg

毒薬は劇薬の約10倍の毒性を持つと考えるとわかりやすいでしょう。

イベルメクチン(商品名:ストロメクトール)のイヌを使った実験では、体重1kgあたり40mgと80mgの投与で死亡例が確認されています。
(2)ストロメクトール錠3mgインタビューフォーム
この数値は、上記表の劇薬基準(経口で300mg以下)に該当します。
このデータを見ると、イベルメクチンは適切な用量を守れば安全に使用できますが、過剰摂取すると命に関わる危険性があることがわかります。
そのため、医師の処方のもとで適切に使用すべき「劇薬」として指定されているのです。

劇薬はどんな治療に用いられているの?

劇薬はどんな治療に用いられている?画像

これまでのお話で劇薬というと、なんだか危険なイメージを持ってしまいますよね。
でも「劇薬」は法律に基づいて定められた区分で、毒性が比較的強いものの、適切に使用すれば非常に効果的な治療薬として様々な医療現場で活躍しています。

まず、痛みの管理です。
強い鎮痛効果を持つ薬の多くは劇薬に指定されています。
手術後の痛みや慢性的な痛みの緩和に欠かせない存在です。
次に、感染症治療です。
強力な抗生物質や抗ウイルス薬の一部は、その効果の強さから劇薬に分類されることがあります。
重篤な感染症と闘うための重要な武器となっています。
また、循環器系疾患の治療にも使われます。
心不全や不整脈、高血圧などの治療に用いられる薬の中には、効果が強力なために劇薬指定を受けているものがあります。
さらに、精神・神経系疾患の治療においても、強い作用を持つ向精神薬やてんかん治療薬などが劇薬として管理されています。
がん治療の分野では、多くの抗がん剤が劇薬や毒薬に指定されています。
がん細胞を攻撃する強い作用は、同時に正常細胞にも影響を与える可能性があるため、慎重な取り扱いが必要です。

これらの劇薬は、医師の処方箋に基づいて薬剤師が調剤し、適切な用法・用量で使用されることで、多くの患者さんの治療に貢献しています。
しかし、その効果の強さゆえに、誤った使用は危険を伴うため、厳重な管理が必要不可欠なのです。

日常でよく目にするお薬だって劇薬指定されている?

日常でよく目にするお薬だって劇薬指定されている?画像

「劇薬」と聞くと特別な治療薬というイメージがありますが、驚くことに私たちの身近にある薬の中にも劇薬指定を受けているものがあります。
これは多くの人が知らない事実かもしれませんね。たとえば、熱や痛みによく使われる「カロナール」の主成分であるアセトアミノフェンは、200mgや300mgでは普通錠なのに500mgになると劇薬に指定されています。
劇薬指定には用量によって変わってきます。
市販の解熱鎮痛薬には低用量で含まれているため劇薬ではありませんが、医療機関で処方される高用量製剤は劇薬として扱われています。
また、関節リウマチや痛みの治療に使われる「インドメタシン」も劇薬です。
湿布や塗り薬などの外用薬として使われると普通薬ですが、内服薬であるインフリーカプセルや坐薬であるインテバン坐剤などでは劇薬指定を受けています。
体内に入るほど影響が大きいことから劇薬に区分けされます。
意外かもしれませんが、私たちがコーヒーや紅茶で日常的に摂取している「カフェイン」も、純粋な原末や高濃度製剤は劇薬に指定されています。
飲料に含まれる量は微量ですから心配無用ですが、医薬品として使用される場合は注意が必要です。

最近では、新型コロナウイルスのワクチンとして使用されたモデルナ社のワクチンも劇薬に指定されていました。
これは効果や安全性に問題があるわけではなく、新しいタイプのワクチンであることから慎重を期して指定されたものです。
ここで大切なポイントは、「劇薬」という指定は必ずしもその薬が「危険」というわけではないということです。
むしろ、効果が強いため適切な管理下で使用する必要があるというサインなのです。
劇薬指定には、有効成分の種類だけでなく、含有量や剤形なども関係します。
同じ成分でも、高濃度・高用量のものは劇薬、低濃度・低用量のものは普通薬として区別されることが多いんですよ。
私たちが薬局やドラッグストアで購入できる一般用医薬品には、基本的に劇薬指定のものはありません。
劇薬は医師の処方に基づいて使用されるか、医療従事者によって適切に管理・投与されるものだからです。
このように、劇薬は特別なものだけでなく、実は身近な薬の中にも存在しているのです。

劇薬指定「イベルメクチン」の副作用

劇薬指定「イベルメクチン」の副作用画像

劇薬であるイベルメクチンの副作用には、重大なものから軽微なものまで様々あります。
まずは重大な副作用から少し詳しく見ていきましょう。
イベルメクチンを服用する際に特に注意すべき重大な副作用は頻度は低いものの、命に関わる可能性もあるため、以下の症状には特に警戒が必要です。
まず、「中毒性表皮壊死融解症(ちゅうどくせいひょうひえしゆうかいしょう)」や「皮膚粘膜眼症候群(ひふねんまくがんしょうこうぐん)」と呼ばれる重篤な皮膚の病気が起こることがあります。
これらは皮膚が広範囲に赤くなり、やがて水ぶくれになったり、皮がむけたりする怖い症状です。
また、肝臓に関わる副作用として、肝機能障害や黄疸が報告されています。
皮膚や白目が黄色くなる症状が現れることもあります。
血液に関する副作用では、血小板が減少することがあります。
血小板は出血を止める役割があるため、減少すると内出血や出血が止まりにくくなる可能性があります。
さらに、意識に関わる副作用も報告されています。
昏睡状態になったり、意識レベルが低下したり、普段とは違う意識状態になったりすることがあるのです。

重大な副作用以外にも、日常生活に影響する可能性のある副作用がいくつか知られています。
皮膚関係では、かゆみや発疹が比較的よく見られます。
場合によっては蕁麻疹(じんましん)が出ることもあります。
かゆみが一時的に悪化することもあるようです。
消化器系の症状としては、吐き気や嘔吐、下痢、食欲不振、便秘、お腹の痛みなどが報告されています。
また、めまいや眠気、手足の震え(振戦)といった神経系の症状も現れることがあります。
その他、疲労感や無力感、血圧低下、喘息の症状が悪化するケースも報告されています。

その他の副作用には血液検査の数値に変化が現れることもあります。
肝機能の異常(AST・ALT・ビリルビン・γ-GTPの上昇)、腎機能の異常(BUNの上昇)、血液細胞の変化(貧血、好酸球増加、白血球減少など)、LDHの上昇などが報告されています。
また、血尿が見られることもあります。
医師の指示に従って定期的に血液検査を受けることで、これらの変化を早期に発見することができます。
薬には効果とともに副作用があるものです。
イベルメクチンを服用する際は、これらの副作用の可能性を知った上で、異変を感じたら早めに医師に相談しましょう。

まとめ

劇薬とは、その強い薬理作用から厳格な取り扱いが定められた医薬品のことです。
イベルメクチンも含め、劇薬は適切な処方と用法用量を守れば安全に使用できるお薬です。
今回見てきたように、劇薬と毒薬の区別は危険性の度合いによるもので、劇薬は毒薬より安全域が広いものの、やはり注意が必要です。
イベルメクチンが劇薬に指定されているのも、その強い作用と安全に使用するための配慮からなんですね。
意外だったのは、私たちの身近にあるアセトアミノフェンやカフェインなども、条件によっては劇薬に分類されるという事実です。
これは危険というより、効果が強いため慎重に使うべきというサインと理解すべきでしょう。
劇薬の副作用については個々の薬によって異なりますが、医師や薬剤師の指示を守ることで、そのリスクを最小限に抑えられます。
自己判断での使用は決して行わないでください。
結局のところ、「劇薬」という言葉に必要以上に恐怖を感じる必要はありません。
医療の現場では、患者さんの病気と向き合うための大切な武器として、適切な管理のもとで日々使われています。
大切なのは、医師の指示に従い、正しい知識を持って薬と付き合うことなのです。
薬との正しい付き合い方を知ることで、私たちはその恩恵を最大限に受けることができるんですね。

出典

厚生労働省(毒薬・劇薬と毒物・劇物)
ストロメクトール錠3mg添付文書
COVID-19 ワクチンモデルナ筋注添付文書
カフェイン水和物原末「マルイシ」添付文書
1)埼玉県薬剤師会
2)ストロメクトール錠3mgインタビューフォーム
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