妊活中に薬を服用することで起こる影響
妊活中に医薬品を服用することで、どのような影響が生じる可能性があるのでしょうか。
漠然とした不安ではなく、具体的にどんな影響が起こりうるのかを理解することで、適切な対策が立てられます。
まず女性の妊活に医薬品が与える影響から見ていきましょう。
女性への影響

①排卵への影響
一部の医薬品は女性のホルモンバランスに作用し、排卵に影響を与えることがあります。
特に注意すべき医薬品は以下のようなものがあります。
注意すべき医薬品
①特定の向精神薬(特に抗精神病薬)にはプロラクチン値を上昇させ、排卵障害を引き起こす可能性があります。
②特定の抗炎症薬には排卵のタイミングがずれることがあります。
③ステロイド系薬剤には長期使用で生理不順や無月経を引き起こすことも考えられます。
②子宮内膜への影響
妊娠には健康な子宮内膜環境が必要です。
以下の医薬品は子宮内膜に影響する可能性があります。
子宮内膜に影響する可能性のある医薬品
①イブプロフェンやロキソプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は長期使用で子宮内膜の状態に影響を与え、適切な排卵や受精卵の着床を妨げるリスクがあります。
②特定の抗がん剤は子宮内膜の機能を一時的に低下させることがあります。
妊娠初期の影響

続いて妊娠初期に医薬品を服用した場合の影響について見ていきましょう。
妊活が成功し、気づかないうちに妊娠初期に入っていた場合、医薬品の影響はどうなるでしょうか?
①器官形成期(妊娠4~7週)への影響
この時期は赤ちゃんの主要な器官が形成される重要な時期です。
以下は医薬品による具体的な影響になります
医薬品による具体的な影響
①特定の抗てんかん薬は神経管欠損症、口唇口蓋裂などの奇形リスクが上昇します。
②バルプロ酸には二分脊椎などの神経管閉鎖障害(しんけいかんへいさしょうがい)のリスクが通常の2~3倍に上昇します。
③特定の向精神薬では心臓奇形のリスクがわずかに上昇する可能性があります。
④レチノイド(ビタミンA誘導体)系薬剤は顔面の奇形や心臓の発達異常のリスクがあります。
②妊娠後期の医薬品の影響
妊娠後期に医薬品を服用し続けた場合の影響も理解しておくことが大切です。
妊娠後期に医薬品を服用し続けた場合の影響
①ベンゾジアゼピン系の睡眠薬(ハルシオンなど)・抗不安薬(デパスなど)には赤ちゃんの筋緊張低下や呼吸抑制が出ることがあります。
②特定の抗うつ薬(パロキセチンなどのSSRI)は新生児適応症候群(一時的な神経過敏、摂食障害など)のリスクが上昇します。
③解熱鎮痛剤(特にNSAIDs)では胎児の動脈管早期閉鎖や羊水減少のリスクがあります。
男性への影響

妊活中に医薬品が与える影響は女性だけとは限りません。
男性における医薬品の服用が妊活に与える影響について見ていきましょう。
①精子への直接的影響
①特定の抗がん剤には精子の数や質に一時的あるいは永続的な影響を与える可能性があります。
②シクロスポリン(免疫抑制剤)には精子の運動性低下の可能性があります。
③特定の抗菌薬では精子の質に一時的な影響を与えることがあります。
②性機能への影響
①特定の降圧剤には勃起機能に影響する可能性があります。
②抗うつ薬(特にSSRI)などは性欲減退や射精障害を引き起こすことがあります。
③プロスタール(前立腺肥大治療薬)では性欲減退やインポテンス等の可能性があります。
通常の医薬品とは違い、長期間体内に残存し妊活や妊娠に影響を与える可能性のある医薬品には特に注意が必要です。
エトレチナート(チガソン)
角化症治療薬で、体内から完全に排出されるまで最大2年
リバビリン(C型肝炎治療薬)
治療終了後6ヶ月は妊娠を避けるべき
レフルノミド(リウマチ治療薬)
体内から完全に排出されるまで時間がかかる
薬の影響は多岐にわたりますが、すべての医薬品がリスクをもたらすわけではありません。
妊活中や妊娠中の医薬品の影響は、薬の種類、用量、時期によって大きく異なります。
不安があれば必ず医師に相談し、自己判断で医薬品の中止や減量をしないことが重要です。
病気の悪化も妊活や妊娠にとってリスクとなるため、リスクとベネフィットのバランスを考えた判断が必要です。
妊活中の薬の影響のない時期は?

妊活や妊娠中でも実は、医薬品の影響を心配せずに済む時期があるんです。
① 生理中は医薬品の心配がほとんどない
月経中は、妊活中でも医薬品の影響をあまり心配しなくて良い時期です。
なぜなら、この時期は妊娠していないので胎児への影響がないのはもちろん、子宮内膜も新しく入れ替わる時期だからです。
生理痛で鎮痛剤を飲むことをためらう方もいますが、むしろ痛みを我慢することでストレスが溜まり、ホルモンバランスが崩れる方が心配です。
ロキソニンやイブなどの一般的な鎮痛剤は、次の排卵や妊娠準備に影響することはほとんどないので、必要なら服用しても大丈夫でしょう。
② 排卵前の卵胞期も比較的安全
生理が終わってから排卵日までの時期(卵胞期)も、多くの医薬品が安心して使える期間です。
この時期に飲んだ医薬品は、排卵までに体から出ていくことがほとんどなので、将来の受精や着床に影響することは少ないと言われています。
たとえば風邪薬や胃腸薬を一時的に服用しても、数日後には体内から排出されており、卵子の質に影響を与えるリスクは極めて低いでしょう。
ただし、継続的に使う医薬品や特殊な医薬品については、事前に医師や薬剤師に相談することをおすすめします。
注意点として、風疹などの生ワクチンは接種後2ヶ月間妊娠を避けるよう推奨されています。
妊活を始める前にこういったワクチン接種は済ませておくと安心です。
③ 受精後2週間以内も意外と影響が少ない
受精から約2週間(一般的な妊娠検査薬で陽性反応が出る前)の期間も、服用した医薬品の影響は比較的小さいとされています。
この時期は「全か無かの法則」と呼ばれる現象があり、医薬品の影響で細胞に重大な異常が生じた場合、流産するか、あるいは完全に回復して問題なく成長を続けるかのどちらかになるケースが多いのです。
つまり、妊娠に気づく前に風邪薬や頭痛薬を飲んでしまっても、過度に心配する必要はありません。
ただし、妊娠の可能性があるなら、念のため市販薬でも薬剤師に相談すると良いでしょう。
④ 妊娠28週以降は主要器官がすでに形成済み
妊娠後期、特に28週を過ぎると、赤ちゃんの主要な器官はすでに形成されているため、医薬品による影響が出にくくなります。
この時期は赤ちゃんの肺が成熟し、体重が増加する大切な時期です。
医学的には、28週を超えた胎児は早産になっても適切な医療を受ければ90%以上が生存できるようになっているため、(1).https://plaza.umin.ac.jp/nrndata/pdf/10YearReportadj.pdf)母体の健康維持のための薬物治療が優先されることもあります。
特に高血圧や糖尿病などの持病がある場合、適切な薬物治療によって母子ともに安全に過ごせることが多いでしょう。
反対に、もっとも医薬品の影響に気をつけたい時期は妊娠4週から12週頃、いわゆる「器官形成期」です。
この期間は胎児の脳や心臓、手足などの重要な器官が作られる時期なので、特定の医薬品が先天異常のリスクを高める可能性があります。
医薬品の服用が必要な場合は、必ず医師に妊娠していることを伝え、適切な医薬品が処方されるよう相談しましょう。
妊活中に服用可能な薬の種類は?

妊活中に服用を注意しなければならない医薬品は多々ありますが、逆に服用可能な医薬品って気になりますよね。
どんな種類の医薬品であれば服用しても問題ないのでしょうか?
ここでは皆さんが最も気になる医薬品を中心に服用可能な医薬品を紹介していきます。
①葉酸サプリメント
妊活中に積極的に摂りたいのが葉酸です。
厚生労働省も妊娠前から摂取することを推奨しており、赤ちゃんの神経管閉鎖障害リスクを低減します。
1日400μgの摂取が目安とされています。
ただし、1日1000μg以上の摂取は不要ですので取りすぎにも注意しましょう。
②ビタミン・ミネラル類
ビタミンEやCには抗酸化作用があり、卵子や精子の質向上に役立つとされています。
亜鉛やセレンなどのミネラルも生殖機能をサポートするため、バランスよく摂ることが大切です。
特に鉄・ビタミンB群・ビタミンC・亜鉛・カルシウムは積極的に摂りたいサプリメントです。
③風邪薬・解熱鎮痛剤
アセトアミノフェンは比較的安全性が高いとされる解熱鎮痛剤です。
頭痛や肩の痛み、腰痛に効果的です。
また熱を下げる作用もあるため常備薬としておすすめです。
総合感冒剤ではアセトアミノフェン以外にも成分が入っている為注意が必要です。
④胃腸薬
酸化マグネシウムや乳酸菌製剤などは、一般的に妊活中も使用できる胃腸薬です。
ただし、下痢や便秘が続く場合は、医薬品に頼る前に食生活の見直しも検討しましょう。
⑤アレルギー薬
第二世代抗ヒスタミン薬(ロラタジン、セチリジン、レボセチリジン、デスロラタジンなど)は妊活中も使用可能とされていますが、個別の医薬品によって異なるため、医師または薬剤師に確認することをおすすめします。
(2). https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/122/8/122_1167/_pdf/-char/ja)
⑥漢方薬
漢方薬も商品によってはとって良いものと悪いものがあります。
特定の漢方薬は子宮収縮など妊娠継続に影響を与える作用をもつものもあります。
一方で、温経湯は月経不順に、八味地黄丸は男性の生殖能力改善に、補中益気湯は胃腸が弱い方に、当帰芍薬散は月経不順・過多月経・月経困難症にと、妊活に効果的な医薬品も多く存在するため積極的に摂ることをおすすめします。
甲状腺疾患や高血圧、てんかんなどの持病がある場合、治療薬の中断は別のリスクを生じることがあります。
こうした医薬品は自己判断で中止せず、妊活前に主治医と相談して、必要に応じて妊活・妊娠に適した医薬品に変更することが重要です。
妊活中でも体調管理は大切です。
必要な医薬品を我慢するより、医師または薬剤師の助言を得て適切に使用する方が、心身ともに健やかに妊活を続けられます。
風邪薬やサプリメントの選び方

妊活中の風邪薬、どう選べばいいのか悩みますよね。風邪をひいたとき、何も対策せずにいるのはつらいものです。
しかし、妊活中は通常以上に医薬品の成分に気を配る必要があります。
まず知っておきたいのは、市販薬の多くは複数の有効成分を含んでいるということ。
複数入っているものの場合、服用出来る成分なのかできない成分なのかよく判断する必要があります。
風邪薬の選び方
複数成分のある医薬品では一方の成分が服用可能であっても、別の種類の成分が排卵や着床に影響する可能性があればその医薬品自体が飲めないことになります。
また、漢方薬の中にも妊活中に避けたほうがよい成分が含まれることがあります。
では何を選べばよいのでしょうか?
解熱鎮痛剤なら「アセトアミノフェン」が比較的安全とされています。市販薬であればカロナールAやタイレノールAが販売されています。
また、のどの痛みには「リゾチーム塩酸塩」「グリチルリチン酸」が配合しているトローチなども使用しやすいでしょう。
市販薬では「アズレンEトローチ」「トローチゴールド」等が販売されています。
うがい薬はヨードの含まれているものは避け、炎症を抑える成分である「アズレンスルホン酸」配合のうがい薬を積極的に使用すると良いでしょう。
市販薬では「アズレンCPうがい薬」「トラフルクリアウォッシュ」等が販売されています。
ただし、「これなら絶対安全」という医薬品はないんだということをよく覚えておきましょう。
サプリメントの選び方
一方、妊活サプリを選択するポイントは何でしょう。
妊活サプリは種類が豊富で迷いがちですよね。
大切なのは自分に本当に必要な栄養素を見極めることです。
基本となるのはやはり「葉酸」です。
これは妊娠初期の胎児の神経管閉鎖障害リスクを下げるために妊活中から摂取が推奨されています。
選ぶ際は「モノグルタミン酸型」の葉酸が配合されているものがおすすめです。
また、卵子・精子の質向上に役立つとされる「CoQ10(コエンザイムQ10)」や「ビタミンE」、ホルモンバランス調整に期待される「マカ」なども注目されています。
サプリ選びで気をつけたいのは、品質の確かさでしょう。
製造元がはっきりしている国内GMP認証取得メーカーの商品や、第三者機関の品質検査を受けた製品を選ぶと安心です。
また、添加物が少ないという点も選択肢の一つになるでしょう。
しかしどんなに良い成分でも、「過剰摂取」は逆効果になることもあります。
サプリメントはあくまでも栄養補助食品であるということを忘れてはいけません。
バランスの良い食事を基本に、必要に応じて補うという考え方が大切です。
妊活中の薬の服用によるリスクと副作用
妊活に影響する可能性のある医薬品ってなんでしょうか?
まず知っておきたいのは、すべての医薬品に何らかのリスクがあるということ。
特に妊活中は、排卵や受精、着床などのデリケートな過程に影響する可能性がある医薬品に注意が必要です。
妊活中の薬の服用によるリスク
①解熱鎮痛剤のリスク
頭痛や生理痛によく使われる非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)には要注意です。
イブプロフェン(イブなど)やロキソプロフェン(ロキソニンなど)は、排卵障害を引き起こす可能性があります。
これらの医薬品は、排卵に必要なプロスタグランジンの合成を抑制してしまう作用があるからです。
長期的な使用では、黄体機能不全や着床障害のリスクの可能性もあります。
また、排卵日前後の服用は、排卵のタイミングをずらしてしまうこともあります。
②抗ヒスタミン薬と風邪薬の影響
花粉症や風邪薬に含まれる抗ヒスタミン成分は、子宮頸管粘液を固くして精子の通過を妨げる可能性があります。
また、一部の市販風邪薬に含まれる成分(フェニレフリンなど)は血管を収縮させ、子宮や卵巣への血流を減少させる恐れがあります。
③抗生物質による影響
抗生物質の中には、腟内の善玉菌のバランスを崩し、受精環境に影響を与えるものがあります。
特にテトラサイクリン系やニューキノロン系の抗生物質は注意が必要です。
また、マクロライド系抗生物質の一部は、男性の精子の質に影響することが指摘されています。
④漢方薬も油断禁物
「自然由来だから安心」と思われがちな漢方薬ですが、なかには子宮収縮作用のある生薬(当帰、川芎など)を含むものがあり、着床や妊娠初期に影響する可能性があります。
妊活中の薬の服用による副作用

医薬品の副作用は体質によって個人差がありますが、妊活中は特に以下の副作用に注意が必要です。
①ホルモンバランスの乱れ
一部の医薬品は女性ホルモンに影響し、生理周期が不規則になる可能性があります。
②卵子の質への影響
抗がん剤などは卵子のDNAにダメージを与えることがあります。
③子宮内膜環境の変化
子宮内膜の厚さや血流に影響する医薬品もあります。
④男性不妊への影響
パートナーが服用する医薬品が精子の質や量に影響する可能性もあります。
妊活と薬の問題は悩ましいものですが、正しい知識を持って適切に対処すれば、不安を減らすことができます。
妊活中の薬の服用に関するよくある質問

- Q妊娠しているとは知らずに市販の風邪薬を飲んでしまいました。胎児への影響はありますか?
- A
妊娠に気づかず風邪薬を飲んでしまっても、過度に心配する必要はありません。1回の服用で重大な影響が出ることは稀です。
ただし、妊娠初期(最初の3ヶ月)は胎児の器官が形成される大切な時期なので注意が必要です。
心配なら必ず産婦人科医に相談しましょう。薬の種類や服用時期によって対応が異なります。
今後のために、妊娠中は医師に確認してから薬を服用するのが安心です。
- Q薬局・ドラッグストアで販売している医薬品であれば妊活中でも使用できますか?
- A
妊活中はたとえ市販薬であっても使用には注意が必要です。
痛み止めや風邪薬の一部は妊娠や受胎に影響することもあります。不安なら薬剤師に「妊活中」と伝えて相談してみましょう。
安心・安全な選択肢を教えてもらえますよ。
- Q妊活中にパートナーの男性が医薬品を使用し妊娠した場合、胎児に影響がある医薬品はありますか?
- A
男性が使う医薬品にも注意が必要です。
抗がん剤や特定の抗生物質、高血圧薬などは精子に影響し、結果的に胎児に関わることもあります。
妊活中なら、パートナーも医薬品の使用は医師に相談するのがベストです。
まとめ
妊活中の医薬品の服用については、不安に思われる方も多いでしょう。
ここまで見てきたように、医薬品の種類によっては排卵や着床に影響するものがあります。
特に非ステロイド性抗炎症薬(ロキソニンなど)は排卵障害のリスクがあり、抗ヒスタミン薬は頸管粘液を変化させることがあります。
一方で、体調不良時に全く薬を使わないのは現実的ではありません。
妊活中でも比較的安心とされるアセトアミノフェン系の解熱鎮痛剤や、医師が処方する一部の抗生物質などは、適切な用量と期間であれば服用可能です。
大切なのは「自己判断しない」こと。
市販薬を購入する際は必ず薬剤師に「妊活中です」と伝え、病院でも同様に医師に妊活していることを伝えましょう。
サプリメントも「医薬品」と同じ視点で選び、成分や品質をチェックすることが重要です。
症状がつらい時は、医薬品に頼る前に休養や温めるなどの対処法も検討してみてください。
どうしても不安な場合は、産婦人科や不妊専門クリニックでの相談をおすすめします。
妊活は心身ともに大変な時期ですが、正しい知識を持って医薬品と向き合うことで、不安を減らしながら健康管理ができます。
あなたの妊活が実りあるものになりますように。
出典
東京都福祉局
日本産婦人科医会
Ibuprofen delays ovulation by several hours: prospective controlled study in natural cycles with HCG-triggered ovulation
厚生労働省(妊娠と薬)
北海道薬剤師会(男性が服用した薬剤の妊娠・胎児への影響)
1).新生児臨床研究ネットワーク・データベース (極低出生体重児)から得られたエビデンス (2003-2012)(2021改訂版)
2).妊婦・授乳婦への薬物投与


