貧血とは

貧血とは、血液中の赤血球やそこに含まれるヘモグロビンが正常値よりも少なくなった状態を言います。
貧血になると、赤血球※1やヘモグロビンの量が少なくなり、体の隅々まで酸素が行き届かなくなります。その結果、様々な不調があらわれることになります。
貧血の検査は、血液検査でヘモグロビン値※2や赤血球数を測定することで判明します。
WHO(世界保健機構)の定義では、成人男性において血中のヘモグロビン値が13g/dL未満、成人女性で12g/dL未満になると「貧血」と診断されます。
日本人の男性で約10%が、また女性で約13%がこの基準を下回っているとのデータもあり、多くの人が貧血気味なのが実情です。(厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告」より)
貧血であるにもかかわらずに放置していると全身の酸素不足が進み、命に関わることもある重篤な病気につながる可能性があります。
貧血が疑われる場合は血液検査を受けることで判明します。定期的に健康診断を受けることが大切です。
※1赤血球
骨髄でつくられ、血液を通じて全身に酸素を運び、二酸化炭素を持ち帰ってくる大切な役割を担っています。
赤血球の中には鉄分を含むヘモグロビンというタンパク質が入っており、このヘモグロビンが酸素を運んでいます。
※2ヘモグロビン値
ヘモグロビン濃度は1dLあたりのヘモグロビンの重量(g)で示されます。
成人男性及び成人女性についての基準値は説明しましたが、その他高齢者では11g/dL未満、妊婦は10.5~11g/dL未満とさらに低く設定されています。
なぜ妊婦の基準が低いのかというと、妊娠中は血液の液体成分(血漿)が増える一方でヘモグロビン濃度は薄められるためです。ただし、これは妊婦がヘモグロビンを少なくしていいという意味ではありません。分娩時の出血に備え、血液量そのものを増やしている状態なのです。
ヘモグロビン値には個人差もありますので、いきなり基準値を下回った場合でなくても、普段より2g/dL以上低下したようなときは要注意です。
貧血の症状

貧血時に起こりうる代表的な症状は次の通りです。
貧血時の症状
- 疲れやすい、倦怠(けんたい)感
- 立ちくらみ、めまい
- 頭痛、耳鳴り
- 動悸や息切れの発生
- 冷え性
- 食欲不振、悪心(おしん)・嘔吐(おうと)
- 目のかすみ、手足のしびれ
- 不眠
- 集中力低下
- 身体機能の低下(運動能力等)
これらの症状は酸素欠乏に起因するもので、軽度の貧血では自覚しにくいことが特徴です。
貧血がある程度進行すると、身体のあらゆる部位の細胞が酸素不足に陥りはじめ、疲労だけでなく、脳機能低下に伴うめまいや耳鳴り、不整脈などの症状が現れます。
妊婦の間に良く見られる鉄欠乏性貧血では、普段より2倍の量の酸素が必要な状況ですが、これが不足することで流産や早産のリスクも高まります。
高齢者の貧血症状について
高齢者は貧血を発症しやすく、自覚症状が乏しく重症化するリスクが高いため、注意が必要です。
高齢になるほど腫瘍性疾患(がんなど)や慢性炎症を抱える機会が増え、貧血の原因となりやすいからです。鉄欠乏性貧血も出血が多発しがちな高齢者に多く見られます。
貧血の症状自体に年齢差はありませんが、高齢者ほど症状が現れにくい特性があることに注意が必要です。軽度の貧血であっても、物忘れや動揺、転倒リスクの上昇につながりかねません。
認知症と間違われるケースも少なからず存在するほか、最悪の場合、貧血に気づかぬまま容体が急変し、余命を縮めてしまうことも珍しくありません。
よって高齢者の貧血は放置できず、定期的な血液検査による確認と、貧血への対処が欠かせません。原因を特定して治療を行うことで、容体変化や重症化を防ぐことが特に大切です。
貧血の原因

貧血になる原因は大きく以下の4つに分類されます。
①鉄欠乏性貧血
最も多いのがこのタイプです。ヘモグロビンの材料は鉄です。鉄不足状態では赤血球の働きも悪くなります。月経や妊娠による鉄の損失が主な要因となります。
また男性や、閉経後の女性の鉄欠乏性貧血の原因としてもっとも多い疾患として消化管出血があげられます。
②その他の栄養素欠乏
特にビタミンB12や葉酸が不足すると、赤血球を作る能力が低下して貧血を招きます。
胃切除後萎縮性胃炎(いしゅくせいいえん)などに伴うビタミン不足、栄養不良に伴う葉酸欠乏などがあげられます。
③慢性疾患に伴う貧血
腎不全や甲状腺機能低下症、関節リウマチやがんなどの基礎疾患で起こる二次的な貧血です。
病気そのものや治療の副作用で赤血球が減少します。原因疾患の治療が大切です。
④血液疾患による貧血
白血病や再生不良性貧血(さいせいふりょうせいひんけつ)といった血液そのものの病気で発生する貧血があります。
女性特有の貧血

女性は生理による月経があるため、男性に比べて貧血を発症しやすい特徴があります。
ライフステージ別に起こりやすい貧血の主なタイプを見ていきましょう。
【10代】鉄欠乏性貧血
思春期に突入すると月経が始まり、鉄欠乏に陥りやすくなります。
ダイエット目的の過度な食事制限も同様です。成長期ゆえに鉄の必要量が多く、バランスのとれた食事を心がけることが大切です。
【20代~40代前半】鉄欠乏性貧血・他の病気による貧血
働き盛りの女性に多いのが、婦人科疾患や消化器疾患を原因とした出血性貧血です。
過多月経や子宮筋腫など婦人科受診が必要な場合もあります。定期検査が欠かせません。
【妊娠・授乳期】栄養不足による貧血
胎児や母乳の成分として、女性の栄養が消費されます。
食事からの鉄や葉酸、タンパク質の摂取量が特に大切な時期です。栄養バランスを崩さないよう気をつけましょう。
【40代後半~50代前半】月経周期や月経量の異常による貧血
閉経が近づき月経周期や月経量の異常による貧血に注意が必要です。
子宮筋腫や子宮腺筋症などの疾患による貧血も起きるため、しっかり病院受診し検査することが大切です。
【更年期以降】造血機能の衰えによる貧血や現などによる貧血
骨髄機能が低下しやすいほか、がんなども罹患しやすくなります。
貧血のリスクが高まる合併症の多いライフステージといえます。
貧血の予防方法
貧血を予防するには、鉄分や葉酸、ビタミンB12などの栄養素をバランスよく摂取することが大切です。再発を防ぐ食事のポイントをまとめました。
まず鉄不足に注意しましょう。鉄は肉や魚介類、緑黄色野菜に多く含まれます。特に肉類の鉄は吸収しやすいヘム鉄です。植物性の鉄は吸収効率が悪い非ヘム鉄ですが、ビタミンCを同時にとることで変換され吸収が良くなります。
次に葉酸とビタミンB12です。この2つは赤血球やヘモグロビンの生成を助ける栄養素です。葉酸は緑黄色野菜、ビタミンB12は肉・魚・卵・乳製品に多く含まれています。
ほかにもタンパク質、亜鉛、銅など血液生成に必要な栄養を幅広くとるよう心掛けましょう。麺パン米主食の偏食は避け、できるだけ色々な食材を取り入れることが大切です。
多忙で食生活が乱れがちな方はサプリメントを補助的に使用することも良いでしょう。しかしサプリメントに頼りすぎてしまうがあまり、過剰摂取にならないよう注意が必要です。鉄過剰は体内で排出できずに蓄積する可能性があるので、あくまでも食事からの適量補給が基本です。毎日の食事内容を見直し、栄養のバランスを心掛けることが予防につながります。
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貧血に効果的な食べもの
貧血予防や改善には、鉄分を多く含む食品を意識して取り入れることが有効です。中でも吸収率の高い動物性の鉄分を多く含む食べ物がおすすめです。
以下に貧血に効果的な食べ物を示しました。
栄養素 | 食品 |
---|---|
鉄 | レバー(豚・鶏)・卵黄・煮干し・肉類・魚類・あさり・しじみ・豆類・小松菜・ほうれん草・きな粉・ゴマ・切り干し大根・きくらげ・ひじき・のり・ココア・小麦麦芽など |
葉酸 | レバー(豚・鶏・牛)・のり・海藻類・大豆類・葉野菜・果物など |
ビタミンB12 | レバー(鶏・牛)・しじみ・あさり・魚類・鶏類・乳製品など |
亜鉛 | 牡蠣・するめ・牛肉・豚レバー・ナチュラルチーズ・小麦胚芽・かつお節など |
代表的な食品として、レバー、もつ、牛赤身肉、鶏肉、卵、イカなどがあげられます。特にレバーは非常に鉄分が豊富な食材です。
また緑黄色野菜も鉄分を含みますが、単体では吸収効率が悪いため、ビタミンCを合わせて摂取することで鉄の吸収を高めることができます。トマト、キウイ、レモン、ブロッコリーなどを同時に食べるとよいでしょう。
鉄以外にも葉酸やビタミンB12、タンパク質など、赤血球を生成するのに必要な栄養をバランスよく取ることが大切です。
決して偏った食事にならないよう、毎食さまざまな食べ物を組み合わせることを心がけましょう。
貧血予防に控えた方が良い食べ物
紅茶・緑茶・ウーロン茶・コーヒー
紅茶・緑茶・ウーロン茶・コーヒーなどに含まれるタンニンは鉄と結合して鉄の吸収を阻害します。
おから・玄米・ふすま
おから・玄米・ふすまなどの不溶性食物繊維は、鉄の吸収を阻害します。
加工食品
加工食品や清涼飲料水・スナック菓子に含まれる添加物の一種であるリン酸塩は鉄の吸収を阻害します。
鉄の過剰摂取は注意
鉄不足による貧血を防ぐため、鉄の摂取が必要だと説明しましたが、過剰に取りすぎると逆に体に悪影響が出てきます。
厚生労働省の定める鉄分の1日最大摂取量は、男性で50ミリグラム、女性で40ミリグラムとされています。(https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586568.pdf)
これを超えて摂取すると鉄過剰症を引き起こし、便秘や胃腸障害などの症状が現れやすくなります。
特に女性は生理による鉄の損失が多いうえに、妊婦の場合は妊娠中毒症のリスクも高まるため注意が必要です。妊娠中は過剰に鉄剤を服用するよりも、産婦人科で相談しながら適量を摂取することが大切です。
サプリメントで不足分を補おうとした場合、最大摂取量を意識して過剰摂取しないことがポイントです。
鉄は吸収効率が悪い栄養素だと認識し、食事からの適正量摂取を基本としましょう。定期的な検査で過不足なく調整していきたいものです。
貧血に関するよくある質問

- Q健康診断で貧血を指摘された場合何科を受診したらよいですか?
- A
貧血が疑われる場合、最初に受診するのは血液疾患を扱う「血液内科」や「一般内科」が適切です。
血液内科では血液検査から貧血の程度やタイプを詳しく調べ、適切な治療方針を立ててくれます。一般内科でも血液検査による貧血の判定は可能です。
貧血の原因として腎臓病や消化器疾患などが特定された場合は、それぞれ腎臓内科や消化器内科などの専門医への紹介があることでしょう。
月経時の過剰な出血が貧血の原因と疑われる女性の場合は、婦人科を受診することをおすすめします。生理周期と貧血症状の関連性を判断してもらいます。
もしも現在他の疾患で治療中であれば、その担当医に相談して指示を仰ぐのが賢明です。新たに貧血が指摘された場合、担当科の変更や並行して血液内科を受診する等の対応がとられるでしょう。
いずれにせよ、貧血が疑われたらまず専門医の判断を仰ぐことが大切です。放置せずに適切な治療を開始することで、症状の改善や重症化の防止が期待できます。
- Q貧血は遺伝しますか?
- A
貧血そのものが直接遺伝することはありませんが、貧血を引き起こす遺伝性疾患は存在します。
代表的な例が「発作性夜間血色素尿症」です。これは赤血球の膜タンパクの遺伝子変異により、赤血球が壊れやすくなる珍しい病気です。
発作的に赤血球が壊れるため貧血を繰り返し、醤油の様な尿が出るのが特徴です。両親が保因者の場合、子どもがこの病気を発症する可能性があります。
ただし、一般的な鉄欠乏性貧血や月経に伴う貧血は、遺伝することはありません。適切な治療により回復が期待できます。
- Qよく貧血になりますがなぜですか?
- A
消化管からの出血、または大腸がんによる出血などでも貧血になりやすいですが、特に理由がないのに貧血になりやすい場合には、飲酒の影響が考えられます。
アルコールを多量に飲むと、次のようなメカニズムで貧血を招きやすくなります。
①アルコールが小腸で鉄の吸収を妨げる
②アルコールそのものや肝臓への障害で赤血球寿命が短くなる
③アルコール性肝炎などで慢性的な出血が起きる
④アルコール多飲による栄養失調で赤血球生成が低下する
女性の場合は生理による鉄欠乏が目立ちますが、男性でもこのようなアルコールの影響で容易に貧血を招いてしまいます。
飲酒量の確認や肝機能検査が必要です。適量を守った上で、鉄分の多い食事やサプリメントなどで改善を図りたいところです。
まとめ
貧血は血液中の赤血球やヘモグロビンの減少により、体のあらゆる部位への酸素供給不足を引き起こす症状です。
貧血になりやすい原因として、鉄やビタミンなどの欠乏、慢性疾患、血液疾患などがあげられます。特に女性は生理に伴う鉄欠乏が大きいため、鉄欠乏性貧血を発症しやすい傾向にあります。
貧血の予防にはバランスのよい食事を心がけることが重要です。
鉄や葉酸、タンパク質を含む食材を意識的に取り入れる習慣づくりが大切です。一方で、鉄などの過剰なサプリメント摂取も健康状態を損なう可能性があるので注意が必要です。
貧血は放置すると重症化の一因となるため、自覚症状がなくても検査で血液データの低下が確認された場合は、適切な治療を受けることをおすすめします。
バランスのとれた食生活と併せて、通院による経過観察を定期的に行うことが回復への近道となります。
出典
貧血の概要(MSDマニュアル家庭版)
厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告」
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」