初めに、喘息とは
喘息とは、空気の通り道である気管支(気道)が炎症によって敏感になり、痙攣を起こし、気道が狭くなることで起こる発作を指します。
「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった音が出るぜん鳴、激しい咳、呼吸がしにくくなるといった症状があらわれます。人口の3~4%ほどが喘息であるという報告もあり、比較的一般的な疾患です。
近年増加傾向にありますが、喘息は起こるタイミングによって日常生活に影響を及ぼすため、本人やそのご家族のためにも早期の治療が必要と考えられています。
運動誘発喘息とは
運動誘発喘息とは、喘息の中でも運動をしたときに呼吸が苦しくなる現象のことを指します。
一時的に気管支が収縮しており、ヒューヒューといったぜん鳴が起こることもあります。
多くの場合は5~10分ほど継続するとされていますが、呼吸を整えるなどの対処をすることでおさまるとされています。
小児での報告が多いですが、成人でも気管支喘息の患者の6割~7割ほどでみられます。
運動した後5~30分ほどで起こる発作を即時型、6~12時間後に起こる発作を遅発型と呼んでおり、遅発型は気づきにくく治療が遅くなるケースがあるので注意が必要です。
運動誘発喘息の原因
冷気の吸入
運動誘発喘息では、運動時に冷たい空気を吸い込むことで気道が冷やされ、神経反射が起こることで気道が収縮してしまうと考えられています。
そのため、冬の寒い時期に長時間の運動を行うと、運動誘発喘息を引き起こす可能性が高いとされています。
気道の乾燥
気道から水分が失われることも、運動誘発喘息を引き起こす1つの原因であるとされています。
気道の表面の浸透圧が亢進し、ヒスタミンやロイコトリエン、プロスタグランジンなどの化学伝達物質が放出され、気道収縮が起こります。
そのため、冬は寒いことに加えて空気も乾燥しているので、運動するときには注意が必要です。
空気中のアレルギー物質の吸入
空気中に汚染物質や、アレルギー物質が浮遊していた場合、吸い込むことで体内でヒスタミン、血小板活性化因子などが放出され、気道の収縮を起こします。
運動誘発喘息の症状
激しい咳、息切れ、息苦しさ、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった音が出るぜん鳴などが主な症状です。
運動するたびに、このような症状が出る場合は、運動誘発喘息を疑った方がよいとされています。
運動誘発喘息が起こりやすい運動
運動誘発喘息が起こりやすい運動の種類としては、ランニングやサイクリングがあります。
一方で喘息が起こりにくい運動としては、水泳があげられます。
起こりやすいかどうかには、運動の負荷量や、持続時間、運動する間隔などがかかわってくるとされていますので、以下に関連する要因と予防法をご紹介します。
運動因子 | 誘発されやすい運動 | 予防方法 |
---|---|---|
種類 | ランニング、サイクリング | 水泳は起こりにくいとされています。 |
種目 | サッカー、バスケットなど | 野球、ゴルフ、バレーボール、剣道、スキー、スケートなどは起こりにくいとされています。 |
負荷量 | 最大の80%以上の負荷がかかる運動 | |
持続時間 | 6~8分以上の運動を持続すると誘発されやすいです。 | 2分以内の運動を休憩をはさみながら行うのがよいとされています。 |
運動の開始 | 準備運動を行わずに急に運動を始めると誘発されやすいとされています。 | ウォーミングアップを行ってから、徐々に運動量を上げていくのがよいです。 |
運動誘発喘息が起こった時の対処法
- まずは運動を中止しましょう。呼吸を整え、症状を落ち着かせることが最優先です。
- その後、水分をとり、負担とならない楽な姿勢で休みます。
- もし、使用している薬剤などがある場合は、服用します。
運動するときは、自分にあまり負荷をかけすぎないことが大切です。ですが、もし発作が起こってしまった時には、呼吸を整えて安静にしてください。
運動誘発喘息の治療法
通常の喘息治療(長期管理薬)に加えて、運動誘発喘息では、運動を行う前に治療薬を服用することが効果的であるとされています。
事前に投与する薬剤の種類としては、気管支拡張薬や抗ロイコトリエン薬などがおもにあります。
長期管理薬
吸入ステロイド薬
苦しくないときも続けて気道の炎症を鎮めて発作を予防します。
強い抗炎症作用があり、ゆっくり効いてくるため、毎日続けていくことが大切です。
吸入ステロイド薬の特徴
- 抗炎症作用を持っているため、症状の改善に役立ちます。
- 吸入の場合は全身的な副作用が少ないとされています。
吸入ステロイド薬の特徴
- 効果が出始めるまでに3日~1週間ほどを要する場合があります。
- やめると効果はなくなってしまいます。
- 吸入後は口の中に残った薬剤を洗い流すためにうがいをする必要があります。
●ブデコートインヘラー
ブデコートインヘラーは、抗炎症作用を持つ吸入ステロイド薬です。吸入した後の残りの量が確認できるため、使いやすいデバイスとなっています。パルミコートのジェネリック医薬品です。副作用としては嗄声(しゃがれ声)が報告されておりますので、異常があった場合には、医療機関を受診してください。副作用を防ぐためにも、吸入した後はうがいをしてください。
吸入ステロイド薬/長時間作用性β2刺激薬配合剤
吸入ステロイド薬と長時間作用性β2刺激薬が一緒に配合された吸入型の薬剤です。
気道の炎症をおさえる効果と、狭くなった気道を広げる効果2つが期待されています。別々に吸入するより効果が高くなります
吸入ステロイド薬/長時間作用性β2刺激薬配合剤の特徴
- 抗炎症作用と気管支拡張作用を併せ持ちます。
- 作用時間が長いため、1日2回ほどの吸入で治療が可能です。
吸入ステロイド薬/長時間作用性β2刺激薬配合剤の注意点
- 毎日正しく薬剤の服用を続けることで効果が出てくるため、突然出た発作に対して止める薬剤ではありません。
●セロフロインヘラー
セロフロインヘラーは、アドエアのジェネリック医薬品です。吸入して使用しますが、気管支を広げ、炎症も鎮めます。吸入が終わった後にはうがいを行ってください。
●フォーモニドインヘラー
フォーモニドインヘラーは、COPD治療薬シムビコートと同じ成分が含まれた吸入薬です。
200mcgと400mcgがありますが、ブデソニドの成分量の違いで、ホルモテロールの成分量は両方とも同じとなっております。ブデソニドは炎症を抑える効果をもたらし、ホルモテロールは気管支拡張効果をもたらします。
気管支拡張薬
β2刺激薬(短時間作用型)
発作が起きた時に、狭くなっている気道を拡げて症状を改善していく薬剤です。短時間型作用性の気管支拡張薬は、
効果がすぐにあらわれるため、運動の10分前くらいに服用することで発作予防効果が期待できます。吸入薬や飲み薬などがありますが、吸入薬ではより効果が早くでるとされています。
β2刺激薬(短時間作用型)の特徴
- 気管を広げて呼吸を楽にします
- 運動する前に服用することで、発作予防の効果が期待できます。
- 運動後に症状が出てしまった場合は、もう1度服用することも可能です。
β2刺激薬(短時間作用型)の注意点
- 運動誘発喘息の重症度が高い場合、無効のケースがあります。
●アスタリン
アスタリンは、サルブタモールという薬剤のジェネリック医薬品です。呼吸が苦しいなどの症状を改善します。作用持続時間はおよそ4時間ほどです。1回1錠を1日3回ほど服用します。副作用としては食欲不振や眠気などがありますので、異常があった場合には医療機関を受診してください。
●アスタリンインヘラー
アスタリンインヘラーは、サルタノールインヘラーのジェネリック医薬品です。有効成分はサルブタモールですが、吸入薬のため、突然の発作のときのために持ち運び、そしてすぐに服用することが可能です。年齢によって服用量が異なります。
●ベントリンインヘラー
ベントリン喘息薬は、気管支喘息の発作が起こった時に気管支を広げて症状を改善する薬剤です。サルブタモールインヘラーのジェネリック医薬品です。使用する前には、本剤をよく振り、吸入器から薬剤を吸い込んでください。大人は1日最高8回まで吸入可能です。1箱には約200回ほどの吸入量が入っています。
その他
抗ロイコトリエン薬
喘息の発作や、アレルギー症状の改善で効果が認められている薬剤で、運動12時間前の服用することが、喘息の発作予防に最も効果的であるとされています。
抗ロイコトリエン薬の特徴
- ロイコトリエンはロイコトリエン受容体に結合すると気道を狭くしてしまいますが、本剤を使用することで気管支を拡張させます。
- 喘息による咳や息苦しさの改善、咳の発作などを予防する効果があります。
- 眠気などの症状も少ないとされています。
抗ロイコトリエン薬の注意点
- 即効性には劣りますが、何日か継続的に飲むことで徐々に効果が発揮されます。
●モンテア
モンテアは、シングレアという薬剤のジェネリック医薬品です。鼻詰まりなどの症状改善・喘息の発作予防効果が期待されています。
運動誘発喘息の予防法
運動誘発性喘息の予防としては、運動前に準備運動をしっかりおこなうことが大切です。
運動する前にはストレッチをし、徐々に運動量を上げていきましょう。激しい運動をいきなりすると発作は起こりやすくなります。
また、運動中に一定間隔をあけて休憩をとる、冷たい空気が軌道に入らないようマスクをする、吸入ステロイドなどの薬を服用して発作を予防しておくことが挙げられます。
そのほかにも運動誘発性喘息の予防方法がありますので、参考にしてください。
運動誘発喘息の予防法
- 気温や湿度が極端に低いところでのトレーニングを避ける。
- 気管支粘膜からの水分蒸発を防ぎ、冷たい空気から気道を守るためのマスクを着用する。
- 準備運動をおこなう。
- 運動前に発作止めの薬を使う。
- ウォ-ミングアップ後、短時間での強い運動負荷を避け、時間をかけて持久トレーニングを実施。
- 休憩をとりながら運動をおこなう。
運動誘発喘息の注意点
運動誘発喘息の原因を明確にすることが大切です。
運動誘発喘息が起こった場合、対処法はいくつかありますが、原因がわからなければ本来するべき対処法と異なることをしてしまうかもしれません。
そのため、発作の原因を把握するようにしましょう。
運動誘発喘息の原因と対策
- 寒さによって運動誘発喘息が引き起こされている場合
スカーフやマスクを着用して空気を温めることが効果的です。また、運動する際は口呼吸ではなく鼻呼吸を意識します。 - 寒さによって運動誘発喘息が引き起こされている場合
スカーフやマスクを着用して空気を温めることが効果的です。また、運動する際は口呼吸ではなく鼻呼吸を意識します。 - 空気中の花粉やカビによって発作が起こる場合
空気中の濃度をチェックし、濃度が高い日には外での運動を避けると良いです。
運動誘発喘息に関するよくある質問
- Q運動誘発喘息はどのような運動で起こるのでしょうか?
- A
運動誘発喘息は空気を喚起する量が多くなる耐久競技の方が、非耐久競技(と比較して起こりやすいとされています。
競技別ではマラソン、トライアスロン、ラグビー、サッカー、スキー、スケート競技、バスケットボール、テニス、ヨットなどにおいて運動誘発喘息がよくみられます。
- Q運動誘発喘息で運動を制限する必要はありますか?
- A
運動誘発喘息があっても、適切にコントロールができるようになれば発作は起こりにくくなるため、運動制限は必要ありません。
そのためには、適切に治療をおこなって症状を予防していくことが大切です。 むしろ運動を続けることは非常に大切で、適度な運動を続けることで、内臓脂肪の減少や筋肉量が増加します。
体力もつきますので、長期的に発作が起こりにくくなります。
1日だいたい20分以上の速い歩行など、運動の種類に指定はありませんが、続けることは大切です。
- Q発作が起きた時の息苦しさを減らすために、できることはありますか?
- A
呼吸訓練が有効です。通常は胸式呼吸という呼吸をしていますが、エネルギーの消費が多いにもかかわらず、古い空気を肺から十分に吐きだすことができず、新鮮な空気をたくさん吸入することができないという特徴があります。
また、首と肩が緊張しやすいため、腹式呼吸を身に着けることをお勧めしています。
腹式呼吸は、効率的に肺の炭酸ガスを吐き出し、新鮮な空気中の酸素をたくさんとり込むことができますので、運動誘発ぜん息や小発作程度であれば、腹式呼吸だけで落ち着く場合もあります。
- Qステロイド薬は、使用するのに抵抗があります。副作用などが心配です。
- A
吸入ステロイド薬の副作用は、ていねいにうがいをしていれば大丈夫です。一方で、経口ステロイド薬は、命に関わる重症な時などに使用され、投与できる期間も制限があります。
ステロイドを恐いと思うのは、気管支にしか作用しない吸入ステロイドとのみ薬や点滴など全身に作用するステロイドを同じものとして考えているからかと思われます。
確かに内服や点滴のステロイドは全身に作用するので、骨がもろくなるなどの副作用があり、医師が限定して使うものです。
ですが、喘息の治療で主に使用される吸入ステロイド薬は炎症が起きている気管支に局所的に作用し、その後、肝臓で分解されて排出されるため、全身への影響はほとんどないとされています。
吸入ステロイドは、気道の炎症を抑え、喘息を改善する最も大切な薬です。ただ副作用として、口の中にステロイド薬が付着したままになっているとカンジタな どのカビが発生し、声枯れなどが発生することがあります。
その副作用も、吸入ステロイドを使った後は、うがいをていねいして洗い流しておけば心配は不要です。
のどの奥の方までガラガラとうがいをし、ぬるま湯や水を飲み、口の中に付着したステロイド薬をしっかり洗い流しましょう。
運動誘発喘息についてのまとめ
運動誘発喘息のまとめ
運動誘発喘息の原因
- 冷気の吸入
- 気道の乾燥
- 空気中のアレルギー物質の吸入
運動誘発喘息が起こりやすいスポーツ
- ランニング
- サイクリング
- サッカー
- バスケット
運動誘発喘息が起こりにくいスポーツ
- 水泳
- 剣道
- スキー
- スケート
- 野球
運動誘発喘息の対処法
- 呼吸を整える
- 安静にする
運動誘発喘息の治療法
- 運動前に薬を服用(吸入)する
運動誘発喘息の予防法
- 事前にストレッチなどの準備運動をする
- マスクをする
運動誘発喘息は子供から大人まで起こる可能性のある喘息です。しかし、治療を適切に行えば運動の制限をすることなく生活をすることが可能です。そのためには正しい予防法をしっかり理解し、症状が気になれば早めに治療を行うことが大切です。薬物治療についてもさまざまな種類がありますので、このコラムをぜひ参考にしていただければと思います。
出典
くすりと健康の情報局by第一三共ヘルスケア 喘息(ぜんそく)の原因
独立行政法人環境再生保全機構 さまざまな喘息
American Thoracic Society 喘息と運動(小児・成人)
運動誘発性喘息 大阪市立大学保健体育科研究室 体力科学(1998)
日本アレルギー友の会 喘息のよくある質問