抗生物質と薬剤耐性菌
風邪を引いたとき、怪我をした時、歯を抜いたときなど様々な場面において抗生物質は使用されます。
その位抗生物質は誰でも一度は口にしたことのある最も身近な医薬品と言えます。
抗生物質についてもっと詳しく知りたい場合は、下記コラムから詳しい解説が見られます。
一般名 | 商品名 | 製造販売元 |
---|---|---|
アジスロマイシン水和物 | ジスロマック錠250mg | ファイザー株式会社 |
レボフロキサシン | クラビット錠250mg/500mg/細粒10% | 第一三共株式会社 |
セフカペンピボキシル塩酸塩水和物 | フロモックス錠75mg/100mg | 塩野義製薬株式会社 |
アンピシリン | ビクシリンカプセル250mg | Meiji Seika ファルマ株式会社 |
アモキシシリン | サワシリンカプセル125/250/細粒10% | LTLファーマ株式会社 |
<メデマートで購入の出来る医薬品>
そんな抗生物質ですが、以前より細菌などによる感染症の治療に必要不可欠な医薬品として使用されてきました。しかし近年、抗生物質が効かなくなる「薬剤耐性菌」が世界中で増加し、感染症の治療を困難にしています。
「薬剤耐性菌」とは一体どういうことなのでしょうか?
薬剤耐性菌とは、特定の抗生物質に対して細菌が耐性を獲得することにより、その抗生物質が細菌の増殖を抑制できなくなることを言います。
なぜこのようなことが起きるのかと言うと、抗生物質を過度に使用したり、適切な使い方をしないことが薬剤耐性を持つ細菌が増殖する原因となります。
例えば、抗生物質を細菌が完全に排除される前に途中で使用を中止すると、残存した弱い細菌が抗生物質に対して耐性を持つ事につながります。このように薬剤耐性を持つ菌が広がると、かつて効果的であった抗生物質が効かなくなり、感染症における治療がより一層難しくなります。
その結果、軽症で治療可能だった感染症が重症化し、患者の回復が困難になってしまいます。
特に、免疫力の低い人々や基礎疾患を抱える患者は、感染症に対する脆弱性が高まり、最悪の場合命を落とすことになるかもしれません。
誤解のないように追記しますが、あくまで薬剤耐性を獲得するのは細菌の方であり人間ではありません。と言うことはつまり抗生物質を服薬したときの主な効果、本来必要とされる作用は細菌には作用せず、副作用は人間に作用すると言うことになります。
治療するために抗生物質を服薬したにもかかわらず副作用の下痢はすれども症状の改善は全く見られないと言うことが起きるということ、これが薬剤耐性菌の怖いところです。
薬剤耐性菌の予防方法
抗生物質は、細菌感染症の治療に欠かせない薬ですが、近年、薬剤耐性菌の増加が大きな問題となっています。
感染症の増加や新たな耐性菌の出現は、適切な抗生物質の使用と、それに関わる人々の選択に依存しています。ここでは、「抗菌薬の賢い使い方」に焦点を当てます。
まず、感染症に対する抗生物質の必要性を減少させることが必要です。感染症を避けるためには、基本的な衛生習慣を実践し、感染症の拡散を最小限に抑えることが重要です。手洗い、うがい、マスクの着用などは日常的な行動として実践し、感染症リスクを低減させましょう。
同時に、医療の現場においては、適切な診断が欠かせません。
患者が症状を正確かつ詳細に説明することで、医師は適切な診断を下すことができます。
不必要な抗生物質の処方は避け、特定の感染症に対してのみ効果的な薬を使用することで、薬剤耐性菌の発生リスクを最小限に抑えます。
また、患者側でも責任が求められます。医師から指示された通りに、抗生物質を正確な量と期間服用することが重要です。薬の効果が感じられたからといって、途中で服用を中断したり、量を減らしたりすることは避けましょう。医師が指示した通りに薬を使い切ることで、感染症を確実に治療し、薬物耐性菌の発生リスクを減少させます。
自己判断で以前に処方された抗菌薬を再利用することも控えるべきです。同じような症状であっても、医師が再評価せずに薬を使用することは、正確な診断を欠くため、薬物耐性菌の進行を促進します。自己処方のリスクを減少させるためには、医師のアドバイスを仰ぎ、適切な治療を受けることが必要です。
まとめると、抗生物質の賢い使い方は医療提供者と患者双方の協力により成り立ちます。正確な診断、指示通りの服用、予防的な行動が薬剤耐性菌の進行を食い止め、未来の感染症対策に貢献することができます。一人ひとりが自己責任を持ち、適切な知識と行動を身につけることで、共に持続可能な未来を築いていくことができるでしょう。
薬剤耐性のリスク
細菌が薬剤に対して耐性が獲得したときの一番のリスクとは何なのでしょうか。
風邪を引いたとき、けがをしたとき、抜歯するとき、もし仮に抗生物質が耐性菌の為使用できないとなれば治療する手立てが無くなります。
つまり最も大きなリスクは症状の重症化や死亡のリスクが高まると言う点です。
薬剤耐性菌の治療において抗生物質による効果が得られなければ、治療の選択肢は限られてしまいます。特に免疫力の低い高齢者などでは治療のリスクが極めて高まります。患者が適切な治療を受けられないことで、症状が悪化し、健康への脅威が一層増大します。
また薬剤耐性菌が病院内で広がると、医療現場は混乱の渦に巻き込まれます。
感染制御に膨大な労力が費やされ、患者の安全が脅かされることとなります。
これは医療スタッフや患者にとって大きな負担となり、医療サービスの質が低下する恐れがあります。
さらに、薬剤耐性が一段と進んだ超耐性菌の出現が危惧されます。これらの菌に対しては現行の抗生物質が効果を発揮しづらく、治療の難化が予想されます。医療が無力感に直面する中、患者たちの健康に対する脅威が一層増すことでしょう。
抗生物質の乱用が耐性菌の増加を招き、疫学的リスクが高まっています。このままでは、有効な抗生物質が失われ、いわゆる「ポスト抗生物質時代」が到来する可能性があります。これは、感染症が治療不可能な状態に陥り、健康へのリスクが飛躍的に増加する未来を予測させます。
耐性菌の増加とその流行は、単なる医学の専門問題にとどまらず、個人と社会全体の健康に深刻な影響をもたらす恐れがあります。抗生物質の適切な使用と、新しい治療法の開発が急務であり、私たちはこれらの課題に真剣に向き合い、未来の健康を守るための努力を続ける必要があります。
抗生物質・薬剤耐性菌に関するよくある質問
- Q抗生物質を使用した場合のデメリットはどのようなものですか?
- A
抗生物質を使用した場合のデメリットとして、以下の点があげられます。
・副作用の発生 抗生物質使用により、下痢や嘔気、皮膚発疹などの副作用が現れるリスクがある。ほとんどの場合は一時的だが、中止しないと症状が長引く可能性がある。
・体内フローラの崩壊 抗生物質が病原菌だけでなく、体内の正常細菌叢(フローラ)まで殺菌することで、体内環境のバランスが崩れる。これにより他の感染症に対するリスクが高まる。
・抗菌薬耐性菌の出現・拡大 抗生物質を使用することで、それに耐性を持った薬剤耐性菌が出現・増加する。こうした耐性菌に対して抗菌薬が効かず、治療の選択肢が狭まることが大きな問題となっている。
以上のようなデメリットがあるため、抗生物質は必要性を慎重に判断し、適正使用に努めることが求められている。
- Q薬剤耐性菌は何が問題ですか?
- A
薬剤耐性菌が問題なのは以下の点です。
・治療の選択肢が狭まる
耐性菌に感染した場合、有効な抗生物質が限られるため治療選択肢が狭まります。場合によってはほぼ全ての抗生物質が効かない超耐性菌の感染となり、治療自体が困難になります。
・重症化や死亡のリスク上昇
耐性菌に対して効果的な抗生物質がない場合、感染症の症状が重篤化しやすくなります。特に高齢者や基礎疾患のある患者では死亡の危険性も高まります。
・感染拡大のリスク増大
耐性菌は隔離対策が遅れると、病院内や地域社会での感染拡大を引き起こしやすいです。パンデミック的流行にもつながりかねません。
・医療費の増大
治療困難な耐性菌感染症の対応で、検査から感染管理、患者隔離に至るまで医療現場の負担が大きく増え、莫大な医療費の浪費につながります。
以上の点から、耐性菌問題への対策は急務の課題であると言えます。
- Q多剤耐性菌とはなんですか?
- A
多剤耐性菌とは、複数の抗菌薬の作用を受けても増殖や生育が阻害されない耐性を獲得した菌のことを指します。
具体的には、主要な抗菌薬の3つ以上のグループやクラスに対して耐性能を持つ菌です。こうした菌に感染すると、使用可能な抗菌薬の選択肢が極端に制限されることになります。
疾患制御の面から見て、多剤耐性菌の出現と蔓延は深刻な世界的課題として認識されています。抗菌薬の適正使用と新規抗菌薬の開発が急務とされています。
- Q薬剤耐性菌は誰に対してリスクがありますか?
- A
薬剤耐性菌による感染症は、以下のような人々にとって特に高いリスクがあります。
・高齢者
・基礎疾患(糖尿病・腎疾患など)を有する人
・輸液・導尿カテーテルなどの医療器具を留置している人
・抗菌薬の長期投与歴がある人
・免疫抑制剤やステロイド剤を使用している人
・長期入院患者や施設入所者
・新生児・乳幼児
これらの人々は、感染した際に重症化しやすく、耐性菌に有効な抗菌薬が限定されることで予後が悪化しやすい特徴があります。
したがって、こうしたリスク群に対しては予防策を徹底するとともに、耐性菌検査と適切な感染症管理が欠かせません。抗菌薬の不必要な乱用も避けるべきです。
- Q抗生物質を使用する際の注意点はありますか?
- A
抗生物質を使用する際の注意点として、以下があげられます。
①医師の判断に基づいて使用すること。無断での服用や過剰服用は控えましょう。
②処方された期間と量を守ること。決められた期間のみ服用し、量も指示通りに服用しましょう。勝手に減量したり中止しないでください。
③副作用の確認をすること。下痢や嘔気などの消化器系の副作用に注意しましょう。また重篤なアレルギー反応にも注意が必要です。
④飲み忘れに注意すること。定時で飲む習慣をつけ、飲み忘れを防ぐ様にしましょう。不規則な内服で耐性菌が生まれるリスクがあります。
⑤他の薬と相互作用も確認すること。服用している他の薬との飲み合わせで、作用が増減する場合があるので注意しましょう。
まとめ
抗生物質の薬剤耐性は、微生物が抗生物質に対して耐性を獲得することにより、治療が難しくなる現象を指します。この耐性は、抗生物質の不適切な使用が招いた結果であり、抗生物質に対する効果を失わせます。
適切な抗生物質の使用と処方が重要となります。医師の指示に従い、適切な薬剤を正確に使用することが必要です。予防策も欠かせません。予防接種や手洗いの徹底、感染症の管理が薬剤耐性の抑制に寄与します。また、新しい抗生物質の研究と開発も急務であり、これによって新たな治療法が提供され、既存の薬剤耐性に対抗できる可能性があります。
薬剤耐性には治療が困難になる言葉一番の問題点です。通常有効だった薬剤が効果を発揮できず、感染症の治療が複雑化し難しくなります。これが進むと医療の進歩が阻害され、手術やがん治療などにおける医療においてもリスクが増加します。また経済的な面でも負担が発生し、治療の複雑化や入院期間の延長により医療費が増加する可能性があります。
抗生物質の薬剤耐性は、感染症の治療の難化だけでなく、医療全体に悪影響を与える深刻な問題となります。その防止には個人と医療機関の協力が必要不可欠であり、抗生物質の適切な使用が基本となります。予防策の徹底や新薬の研究開発が、この課題に対する持続的な解決策となります。今後の研究や政策の進展が、抗生物質の薬剤耐性への対処に向けて非常に大切であり、人類全体の健康と医療の未来に対する貢献が期待されます。抗生物質の持続可能な利用が、公衆衛生の維持と未来の世代への責任を果たす重要な手段であることを理解し、その実践が求められています。
出典
ジスロマック錠250mg添付文書
クラビット錠250mg/500mg/細粒10%添付文書
フロモックス錠75mg/100mg添付文書
サワシリンカプセル125/250/細粒10%添付文書
ビクシリンカプセル250mg添付文書
抗菌薬との正しいつき合い方
抗微生物薬適正使用の手引き 第二版