疥癬とは

ヒゼンダニ(疥癬虫、Sarcoptes scabiei)というダニが人の皮膚に寄生しておこる病気です。
疥癬は「通常疥癬」と「角化型疥癬」の2つのタイプが存在します。
激しいかゆみや赤いぶつぶつなどの症状が、腹部、胸部、大腿内側などにあらわれます。
感染経路は、肌から肌、衣類や寝具を介して間接的にヒトからヒトへ感染します。
感染した場合、潜伏期間は約1~2ヵ月あります。角化型疥癬の場合は、感染力が強いため、通常感染より早く症状が出ることがあります。
疥癬の種類
疥癬は、2つの種類に分けられます。
少数寄生の普通の疥癬(通常疥癬)と、非常に多数のダニの寄生が認められる角化型疥癬(痂皮型疥癬)です。
何が違うのか以下で解説していきます。
疥癬の症状
通常疥癬の症状
通常疥癬の症状
強いかゆみが現れます。
疥癬トンネルという、メスが卵を産み付ける為に作ったトンネルと、赤いぶつぶつができます。
かゆみの原因は、ヒゼンダニが排出する糞や卵に対するアレルギー反応によるものと考えられてます。また、しこり(結節)ができることもあります。
通常疥癬の部位
体幹や四肢に現れます。頭部以外の全身に発生し、特に指の間や陰部、太ももの内側など皮膚の柔らかい部分に集中的に発生することもあります。
結節は、陰嚢や陰茎などにできます。
通常疥癬の特徴
夜間にかゆみ症状が増します。
宿主から離れたヒゼンダニは時間とともに感染力が低下します。
角化型疥癬の症状
角化型疥癬の症状
通常疥癬とは違い、激しいかゆみを伴うこともありますが、かゆみ症状がないケースもあります。
灰色から黄白色で、ざらざらとした厚く蛎殻のように、重積したカサブタ、鱗屑、角質があらわれます。
角化型疥癬の部位
手や足の一部、お尻や肘、膝、爪や手のひらに出る場合があります。
角化型疥癬の特徴
皮膚に寄生しているヒゼンダニは100~200万匹と言われ、感染力が強いのが特徴です。
角化型疥癬では、感染者の免疫力が低下している状態が多いようです。
リネンなどの間接的接触を介して感染が拡大し、集団感染を起こすことがあります。
「通常疥癬と角化型疥癬」の違い
通常疥癬 | 角化型疥癬 | |
---|---|---|
ヒゼンダニの数 | 数十匹以下 | 100~200万匹 |
人の免疫力 | 正常 | 低下している |
感染力 | 弱い | 強い |
症状 | 赤いぶつぶつ | 角質増殖 |
かゆみ | 強い | 不定 |
部位 | 顔・頭以外の全身 | 全身 |
疥癬の感染経路
疥癬はどのように感染するのか調べてみました。
一番多い感染経路は、人から人への接触です。
家族、介護者、セックスパートナーや、畳での雑魚寝などからも感染する可能性があります。まれに寝具や衣類などからも感染することもあるようです。
また疥癬は、通常疥癬から感染する場合と、角化型疥癬から感染する場合があり、感染力が違うので注意が必要です。
通常疥癬の経路
直接経路
長い時間、肌と肌が触れることで感染します。短い時間、触れただけでは、ほとんど感染することはありません。
間接経路
感染者が使用した衣類、寝具などを交換せず、他の人が使用してしまい感染することがまれにあります。
角化型疥癬の経路
感染経路
感染力が強く、短い時間の接触や、衣類、寝具などの間接的な接触でも感染します。
また、皮膚からはがれた角質にも多数のダニが含まれてる可能性があり、感染の原因になることがあります。
治療薬イベルメクチンとは

疥癬の治療に効果のあるイベルメクチンの解説をしましょう
イベルメクチンは、ノーベル生理学・医学賞を受賞した北里大学の大村智特別栄誉教授と、米Merck社の共同研究で創製された抗寄生虫薬です。主に、家畜動物の寄生虫駆除に使用されます。
人に対しては、オンコセルカ症や、疥癬の治療などに長年使われてきました。
抗ウイルス効果がしめされてからは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬に転用するための研究が、国内外で実施されました。
また、コロナウィルスへの有効性について治験を続けていた興和と北里大学が、「安全性は確認されました。」「統計的有意差が認められなかった」との発表がありました。
疥癬治療でのイベルメクチンの服用方法
通常、イベルメクチンとして体重1kg当たり約200μgを1回経口投与する。下記の表に患者体重毎の1回当たりの投与量を示した。本剤は水とともに服用する。
患者体重毎の1回当たりの投与量
体重(kg) | 3mg錠数 |
---|---|
15-24 | 1錠 |
25-35 | 2錠 |
36-50 | 3錠 |
51-65 | 4錠 |
66-79 | 5錠 |
≧80 | 約200μg/kg |

イベルメクチンが疥癬に効くメカニズム

イベルメクチンは、無脊椎動物の神経に存在するGluClチャネル(グルタミン酸作動性塩素チャネル:Glutamate-gated Chloride Receptors)に対し、高い選択性を持つことが分かっています。
GluClは五量体構造を持つシステインループ受容体であり、グルタミン酸の結合により塩素チャネルを開きます。
グルタミン酸は多くの場合興奮性物質として働きます。
しかし昆虫や線虫の神経にある、このGluClは抑制系に働くという特徴があります。
脊椎動物のグルタミン神経にはこの受容体は見つかっておらず、高い選択毒性の理由の一つと考えられています。
イベルメクチンは、GluClの第1膜貫通領域と第3膜貫通領域の境界に結合して塩化物イオンを細胞内に流入させ、持続的に活性化、過分極させることで神経伝達を過剰に抑制し、麻痺させて死に至らしめます。
疥癬に関するよくある質問

- Q疥癬は食事を通してうつりますか?
- A
ありません。
- Q疥癬はお風呂で感染しますか?
- A
通常疥癬の場合、感染しません。ただし、脱衣所に並んで座ったり接触したりすると感染する可能背があります。
角化型疥癬の場合、浴室や脱衣所などで感染します。共通する注意点として、体に直接触れたタオルを共有すると感染する可能性があります。
- Q疥癬はペットから人にうつりますか?
- A
ペットの疥癬が人にうつることはありません。ただし、犬や猫に寄生するヒゼンダニが、人に一時的に皮膚炎を起こす可能性はあります。
- Qどのような場合に疥癬はうつりますか?
- A
ヒゼンダニは、人の皮膚の上では、2.5cm/分の速度で進みます。温度が高いと布団の上、コタツの中などでも歩いていきます。ですから、直接肌と肌が触れなくても、布団等を共用することで疥癬がうつることがあります。
日頃から布団やシーツなどは、できる限り利用者ごとに交換することが予防につながります。
- Q疥癬がどうかわからない皮疹が出た時、皮膚科へ受診した方がいいですか?
- A
必ず受診してください。
まとめ
- 疥癬は、ヒトからヒトへ感染する感染症です。「通常疥癬」と「角化型疥癬」があり、感染経路や症状が異なります。
- 通常疥癬は、長時間肌と肌が触れることで感染します。タオルや衣類を共有することで感染することもあるので、共有せずに取り換えて使いましょう。
- 角化型疥癬は、感染力が強く、短い時間肌が触れただけでも感染する可能性があるので、注意が必要です。衣類や寝具などの共有からの感染や、皮膚からはがれた角質にもダニがいることがあり、感染の原因になるので注意しましょう。
- 通常疥癬の症状は、かゆみや赤いぶつぶつが現れます。角化型疥癬の症状は、激しいかゆみを伴うこともありますが、かゆみがないケースもあります。どちらも潜伏期間は約1~2カ月あります。
また、角化型疥癬は集団感染を引き起こす可能性があるため、より注意が必要です。もし症状が現れた場合は、すぐに皮膚科を受診してください。 - 治療にはイベルメクチンが有効です。服用する量は体重によって変わるので、服用方法をよく読みましょう。
出典
NID国立感染研究所
kegg ストロメクトール錠3mg
東京都保健医療局 東京都多摩立川保健所 疥癬