脱水が起こりやすい薬とは?特に利尿作用がある医薬品は副作用に注意!

利尿剤

脱水とは

体液の働き画像

脱水とは、体内の水分と電解質(ナトリウムやカリウム等)のバランスが崩れ、体液量が減少した状態を指します。
体液は、栄養素の運搬、老廃物の排出、体温調節など、生命維持に不可欠な役割を担っており、この体液量が減少すると、身体に様々な不調が現れます。
特に、体液の主成分である水だけでなく、体液の浸透圧を保つ電解質も一緒に失われることが多いため、単なる水の不足ではないという点が重要です。

主な脱水症状

脱水が起こると、体液量の減少に伴って以下のような様々な症状が現れます。これらの症状は、脱水のサインとして早期に気づくことが大切です。

主な脱水症状

  • 強い喉の渇き
    多くの人であらわれる症状で、初期にみられます
  • だるさ・頭痛
    体液量の減少が全身の倦怠感や血流変化による頭痛を引き起こします
  • めまい・意識障害
    重度になると、脳への血流が減少し、めまいやふらつき、さらに意識が朦朧とする意識障害に至る可能性があります
  • けいれん
    電解質(特にナトリウム)のバランスが崩れることで、手足や全身のけいれんが起こることがあります
  • 尿量の減少
    体液を維持しようと腎臓が水分の排出を抑えるため、尿の回数や量が減り、色が濃くなります
  • 皮膚や口唇の乾燥
    体内の水分が不足しているため、皮膚や粘膜が乾燥します

脱水の重症度について

脱水の重症度は、一般的に「体重の減少率」で評価されます。
体重が 2~5%減少している状態は「軽度の脱水症」で、喉の渇きや尿量の減少などの初期症状がみられます。
さらに 5~10%の減少がみられると「中等度の脱水症」となり、初期症状に加えて、頭痛・めまい・全身のだるさなどがあらわれます。
10%以上の減少は「重度の脱水症」とされ、命に関わる危険な状態です。けいれんや意識障害を引き起こすことがあり、脱水の兆候がある場合は、早めに医療機関を受診することが重要です。

重症度体重減少率主な状態
軽度の脱水症体重の2~5%
未満減少
強い喉の渇き、尿量の減少、口唇の乾燥など
中等度の脱水症体重の5~10%
未満減少
上記に加え、全身の倦怠感、頭痛、めまい、意識がはっきりしない(傾眠傾向)など
重度の脱水症体重の10%以上減少意識障害、血圧低下(ショック状態)、けいれんなど、命にかかわる危険な状態

脱水の原因

脱水を引き起こす原因は多岐にわたりますが、主に「体液量の減少」と「摂取量の不足」によって生じます。体液量が減少するケースとしては、発熱に伴う大量の汗、下痢や嘔吐による消化液の急激な排出、または腎臓からの尿量増加などが挙げられます。
一方、摂取不足は、食欲不振で水分摂取が減る場合や、意識的に水分を控えてしまう状況で発生します。また、特定の薬剤、特に利尿作用を持つ薬の服用も、体外への水分排出を促すため、脱水の重要な原因の一つとなります。
さらに、加齢などによって脳の口渇中枢の機能が低下すると、体が必要とする水分量に見合った喉の渇きを感じにくくなり、結果として水分摂取が遅れ、脱水状態に陥りやすくなります。

脱水が起こりやすい薬

特に注意が必要なのが、治療のために服用している薬が原因で脱水を引き起こすケースです。
薬の中には、その作用機序から体内の水分量を変動させやすいものがあり、特に以下の薬剤には注意が必要です。

脱水が起こりやすい薬画像

利尿薬

利尿薬は、腎臓に作用して尿量を増やし、体内の余分な水分や塩分・ナトリウムを体外へ排出する薬です。高血圧、心不全、腎臓病、むくみなどの治療に用いられます。
例えば、ループ利尿薬に分類される「ラシックス(一般名:フロセミド)」や、チアジド系利尿薬に分類される「ルプラック(一般名:トラセミド)」などの薬が代表的です。
利尿薬は、病気の治療のために意図的に水分と塩分の排泄を促しますが、この利尿作用が強すぎたり、十分な水分摂取を怠ったりすると、体内の体液量が必要以上に減少し、脱水を引き起こします。
特に、ラシックスのような強力な利尿薬は、急速に多量の水分を排出させるため、脱水リスクが高いケースもあります。
利尿薬について詳しく知りたい方は、下記のコラムをお読みください。

糖尿病治療薬

糖尿病治療薬の中で、近年脱水との関連性が注目されているのがSGLT2阻害薬です。腎臓の尿細管にある「SGLT2(ナトリウム-グルコース共輸送体2)」というタンパク質の働きを阻害します。SGLT2は、通常、尿の中に漏れ出た糖分を血液中に再吸収する役割を担っていますが、これを阻害することで、糖分を尿中へ排出させ、血糖値を下げます。
ただし、糖を尿中に捨てる際、浸透圧の原理で水分も一緒に体外へ排出させます。これは、利尿薬とは異なるメカニズムですが、結果として体液量が減少するため、利尿薬と同様に脱水を引き起こすリスクがあります。
特に、夏場の高温環境下や、水分摂取量が少ないとき、他の利尿薬と併用しているときなどは、脱水のリスクが高まるため注意が必要です。
SGLT2阻害薬について詳しく知りたい方は、下記のコラムをお読みください。

下剤

一部の下剤、特に大腸内視鏡検査などで大量の腸管洗浄液(下剤)を服用する場合、脱水のリスクが高まります。
モビプレップなどのポリエチレングリコール製剤(PEG製剤)は、腸内でほとんど吸収されずに水分を保持し、大量の便として排泄させる作用を持ちます。
検査の準備のために服用する下剤は、腸内の便を完全に排出するために、短時間で大量の水分を便とともに体外に出させます。
このとき、摂取する洗浄液に含まれる水分量よりも、体から失われる水分の量が上回ったり、服用中に吐き気などで水分補給が不足したりすると、脱水状態に陥る危険性があります。

その他

アレルギー治療薬や過活動膀胱治療薬などでよく使用される、抗コリン作用がある薬にも注意が必要です。抗コリン作用とは、体温調節に関わる汗腺(発汗)の働きを抑制する作用です。
これにより、体温が上昇しても汗をかきにくくなり、特に高温環境下や運動時などには、体温がうまく下げられずに体内に熱がこもり、脱水状態になるリスクが高まります。

特に脱水に注意すべき人

脱水は誰にでも起こりえますが、特に以下のような方は脱水のリスクが高く、より注意が必要です。

特に脱水に注意すべき人画像

高齢者

高齢者は、複数の要因が重なることで、脱水のリスクが非常に高くなります。

加齢に伴い口渇中枢の機能が低下

一つ目の大きな要因は、加齢に伴い口渇中枢の機能が低下することです。これにより、体内の水分が不足していても喉の渇きを感じにくくなり、自然と水分補給が遅れがちになります。

高齢者は高血圧や糖尿病などの慢性疾患

二つ目に、高齢者は高血圧や糖尿病などの慢性疾患を抱えていることが多く、その治療のために利尿薬やSGLT2阻害薬といった、脱水を誘発しやすい薬を複数服用しているケースが多く見られます。これらの薬剤の影響が重なり合うことで、脱水のリスクはさらに高まります。
加えて、加齢に伴う腎機能の低下も、体液や電解質のバランスを適切に保つ能力を低下させており、若い世代と比べて脱水状態に陥りやすい状況にあると言えます。

病中・病後

病気にかかっているときや回復期も、脱水のリスクが跳ね上がります。特に発熱、下痢、嘔吐がある際は、急速に体液が失われるため、脱水が起こりやすい状況です。
発熱時には大量の発汗によって水分と電解質が失われ、下痢や嘔吐がある際は、胃腸から大量の消化液が体外へ排出されてしまいます。さらに注意が必要なのは、日頃から利尿薬やSGLT2阻害薬を服用している方が、このような体調不良に見舞われた場合です。
もともとの薬の作用に加えて、病状による体液喪失の影響が重なり合い、脱水が急激に進行するリスクがあります。
そのため、体調が優れないときは、自己判断せずに服用中の薬について医師や薬剤師に相談し、適切な対応(服薬の一時的な中止など)を確認することが非常に重要となります。

脱水の予防

脱水は命にかかわる状態に至る前に、適切な予防策で防ぐことが可能です。

脱水の予防画像

喉が渇いていなくてもこまめな水分補給

喉の渇きを感じた時点では、すでに軽度の脱水が始まっています。
特に高齢者や薬を服用している方は、時間を決めて(例:1時間ごと)、意識的に水分を摂りましょう。

電解質の補給

汗や下痢・嘔吐で水分だけでなく電解質も失われている場合は、水やお茶だけでは不十分です。
経口補水液やスポーツドリンクなどで、水と同時にナトリウムなどの電解質を補給することが大切です。

アルコール・カフェインの摂り過ぎを避ける

アルコールは利尿作用があり、摂取した以上に体液を排出させてしまうことがあります。また、コーヒーや紅茶、一部のエナジードリンクに含まれるカフェインも軽い利尿作用があります。
これらは水分補給には適していないため、脱水予防の水分補給には、水、麦茶、経口補水液などを選びましょう。

服用薬の管理

利尿薬やSGLT2阻害薬を服用している方は、特に夏場や体調不良時には脱水のリスクが高まることを理解し、医師や薬剤師に相談して、水分摂取の目安や、体調不良時の対応を確認しておきましょう。

脱水に関するよくある質問

脱水に関するよくある質問画像
Q
脱水予防に飲む水分は、一度にたくさん飲んだほうが良いですか?
A

いいえ、一度に大量に飲んでも、すぐに尿として排出されてしまうため効率的ではありません。
水分は、コップ一杯程度(150~200ml)の量を、1日に複数回に分けて(起床時、食事中、入浴前後、就寝前、運動前後、喉が渇く前など)こまめに摂取することが効果的です。
特に、利尿薬を飲んでいる方は、利尿作用が強く出る時間帯に合わせて水分摂取の回数を増やすなど工夫しましょう。

Q
薬を飲んでいて脱水かもしれないと感じたら、どうすれば良いですか?
A

まずは涼しい場所で安静にし、経口補水液などで水分と電解質を補給してください。
症状が改善しない、またはめまい、頭痛、意識がはっきりしないなどの中等度以上の脱水症状が見られる場合は、速やかに医療機関を受診してください。
自己判断で薬の服用を中止したり、量を変更したりすると、元の病状が悪化するリスクがあるため、必ず医師や薬剤師に相談してください。

Q
夏場以外でも脱水は起こりますか?
A

はい、起こります。特に冬場は空気が乾燥し、暖房の使用で室内も乾燥するため、不感蒸泄といわれる皮膚や呼気から無意識に失われる水分が増加します。
また、寒いとトイレが近くなることを恐れて水分を控える方も多く、脱水のリスクが高まります。夏場と同様に、意識的な水分補給が必要です。

最後に

脱水は、適切な治療薬の服用によっても引き起こされる可能性がある、身近で注意すべき副作用の一つです。
特に利尿薬やSGLT2阻害薬など、水分排出を促す薬を服用している方は、日頃から意識的に水分補給を行うことが大切です。
また、高齢者や発熱・下痢・嘔吐を伴う体調不良時は、脱水が重症化しやすい状況にあるため、より一層の注意が求められます。予防の鍵は、喉の渇きを感じる前に、こまめに水分と電解質を補給することにあります。
もし、脱水症状が現れたり、服用薬について不安を感じたりした際は、自己判断で薬の服用を止めずに、必ず医師や薬剤師に相談し、適切な対応をとってください。

出典

経口補水液OS-1 脱水対策
MedicalNote 脱水症
大阪府済生会吹田病院 薬の豆知識 Vol.3脱水の話
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