水利尿薬とは?
循環器疾患でよく使用される薬の中で「水利尿薬」があるのを知っていますか?
その名前の通り水のみを利尿する薬を言います。
一般的には「おしっこを出しやすくする薬」とよく表現されています。
たくさんおしっこを出すことによって、体の中の不要な水分排泄を促すことを目的とした医薬品です。
水利尿薬は他の利尿薬と異なり、水を選択的に排泄促進し、電解質の尿中喪失が少ない点が特徴です。
現在医療用医薬品として販売されている薬の中では以下の商品がこれに該当します。
販売名 | サムスカOD錠7.5mg/15mg/30mg/顆粒1% | トルバプタンOD錠7.5mg/15mg「オーツカ」 | トルバプタンOD錠7.5mg/15mg/顆粒1%「サワイ」 | トルバプタンOD錠7.5mg/15mg/顆粒1%「トーワ」 | サムタス点滴静注用8mg/16mg |
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一般名 | トルバプタン | トルバプタン | トルバプタン | トルバプタン | トルバプタンリン酸エステルナトリウム |
製造販売元 | 大塚製薬株式会社 | 株式会社大塚製薬工場 | 沢井製薬株式会社 | 東和薬品株式会社 | 大塚製薬株式会社 |
その他「ニプロ」(ニプロ株式会社)、「KMP」(共創未来ファーマ株式会社)、「TE」(トーアエイヨー株式会社)、「DSEP」(第一三共エスファ株式会社)でも同成分医薬品の販売があります。
【個人輸入で購入できる医薬品】
商品名 | ナトリス | トルバプタン |
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有効成分 | トルバプタン15mg/30mg | トルバプタン15mg/30mg |
価格 | 15mg:1錠あたり425円~ 30mg:1錠あたり833.3円~ | 15mg:1錠あたり565円~ 30mg:1錠あたり872円~ |
メーカー・ブランド | Cipla(シプラ) | Centaur Pharmaceuticals Pvt.Ltd.(ケンタウル・ファーマシューティカルズ) |
URL | ナトリスの購入はこちら | トルバプタンの購入はこちら |
トルバプタンの適応症
- ループ利尿薬等の他の利尿薬で効果不十分な心不全における体液貯留
- ループ利尿薬等の他の利尿薬で効果不十分な肝硬変における体液貯留
- 抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)における低ナトリウム血症の改善
- 腎容積が既に増大しており、かつ、腎容積の増大速度が速い常染色体優性多発性のう胞腎の進行抑制
心不全とは
心不全とは、心臓のポンプ機能が低下し、体の組織や臓器に必要な血液供給が不十分になる病態です。
心不全の主な原因
- 心筋梗塞などによる心筋細胞の損傷
- 高血圧症による心臓への後負荷増大
- 弁膜症での血液逆流
心不全の主な症状は、運動時の息切れ、易疲労感、むくみ(浮腫)などです。重症化すると安静時にも呼吸困難感が出現します。
解析的には、心臓の収縮力低下や拡張障害、神経体液性調節異常といった機能不全が混在しています。血行動態をはじめとする病態生理の複雑性から、治療は容易ではありません。
予後改善のためには、基礎疾患の特定と対症療法といった内科的治療に加え、場合によってはペースメーカーや補助人工心臓などの外科的治療が必要となります。
そのため、心不全におけるうっ血のコントロールは、体内水分を減らすことが最も効果的であり、その目的で利尿剤が使用されます。
心不全の患者の多くは、レニンーアンジオテンシン系の亢進によりNa再吸収が亢進され、その結果血漿浸透圧が亢進し、バソプレシン分泌促進状態となることでさらにうっ血が悪化します。
また、心不全によるポンプ失調により、循環血液量減少からバソプレシン分泌促進傾向になり病状はさらに悪化していきます。
トルバプタンの働き
心不全では体液が貯留しやすく、むくみ(浮腫)が生じます。
このむくみを改善するため、通常はナトリウム排泄作用のある利尿薬が使われます。
しかし長期使用すると、低ナトリウム血症や低カリウム血症などの電解質異常を起こしやすいという欠点があります。
そこで注目されているのが、トルバプタンという経口利尿薬です。これは腎臓の尿細管で働くV2受容体を選択的にブロックすることで、バソプレシン(抗利尿ホルモン)の作用に競合して水の排泄を促進します。
心不全では自由水の排泄が阻害されているため、トルバプタンを追加することで体液過剰状態を速やかに改善できます。
他の利尿薬の増量を行うことなく浮腫の軽減が期待できるわけです。一方で口渇(こうかつ)感が強く出現しやすいことに注意が必要です。
投与後は血清ナトリウム値の急上昇に伴い、高ナトリウム血症を招く可能性があるため、口渇感に応じた水分補給が大切です。
血中ナトリウム濃度の変動が大きいと重篤な中枢神経障害(ちゅうすうしんけいしょうがい)を起こす危険性があるからです。
以上のように、トルバプタンは心不全の治療薬として一定の有用性がある反面、血液検査値や症状の変化に注意深く対応する必要があります。
水利尿薬と他の利尿薬との違い
水利尿薬であるトルバプタンと他の利尿薬との一番の違いは、トルバプタンは水のみを選択的に排泄するため電解質への影響がないという点です。
その他、血圧への影響がないことも違いとして挙げられます。
まずは他にどのような利尿薬があるかを解説していきます。
ループ利尿薬
ループ利尿薬とは、腎臓における尿の生成・濃縮メカニズムのうち、ヘンレループと呼ばれる部分を主標的とする薬剤群のことです。
腎臓内で原尿から水分や必要な成分を再吸収し濃縮していく過程で、ヘンレループ上のNa-K-2Clトランスポーターが重要な役割を果たしています。
ループ利尿薬はこの輸送系を阻害することで、ナトリウムや塩化物の再吸収を抑制します。
その結果、尿量の増加や尿の希釈化が起こり、体内の水分・Naを排出できるようになります。
心不全や腎不全、肝障害などで体液貯留が生じた場合の第一選択薬として、ループ利尿薬は幅広く用いられている重要な薬剤群といえます。
販売名 | サムスカOD錠7.5mg/15mg/30mg/顆粒1% | トルバプタンOD錠7.5mg/15mg「オーツカ」 | トルバプタンOD錠7.5mg/15mg/顆粒1%「サワイ」 |
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一般名 | アゾセミド | トラセミド | フロセミド |
製造販売元 | 株式会社三和化学研究所 | 田辺三菱製薬株式会社 | サノフィ株式会社 |
サイアザイド系及び類似利尿薬
サイアザイド系利尿薬は、腎臓の尿細管の最も遠位部位である遠位尿細管に存在するNaCll-共輸送(NCC)を阻害することで利尿作用を示す薬剤群です。
これらの薬剤は体内で蛋白と結合した後、腎臓の尿細管から排泄されるため、腎機能が低下している高齢者では排泄が遅延し、利尿効果が低下することが知られています。
利点としては降圧効果が高く、特に食塩感受性高血圧に対する第一選択薬として用いられます。
一方で体液貯留に対する利尿効果は弱いため、浮腫を主症状とする心不全患者への処方は限定的です。
主な医療用医薬品は以下
販売名 | ナトリックス錠1/2 | テナキシル錠1mg/2mg | フルイトラン錠1mg/2mg | ベハイド錠4mg | バイカロン錠25mg |
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一般名 | インダパミド | インダパミド | トリクロルメチアジド | ベンチルヒドロクロロチアジド | メフルシド |
製造販売元 | 京都薬品工業株式会社 | アルフレッサ ファーマ株式会社 | シオノギファーマ株式会社 | 杏林製薬株式会社 | 田辺三菱製薬株式会社 |
カリウム保持性利尿薬
カリウム(K)保持性利尿薬は、尿細管最遠位の集合管におけるNa再吸収を抑制しつつ、Kの排泄を促進しない利尿薬です。
腎臓のアルドステロン受容体を阻害することでNa排泄促進とK貯留を同時に果たします。
ループやサイアザイドと異なり、血清K値や酸塩基平衡への影響が少ない利点があります。心不全や肝硬変に伴う浮腫・腹水の治療に用いられるほか、高血圧症の治療においても有用です。
一方で腎機能障害時には過剰なカリウム貯留を来しやすいことから、定期的な採血による腎機能および電解質値のモニタリングが不可欠です。併用する際の注意も重要です。
主な医療用医薬品は以下
販売名 | ミネブロ錠1.25mg/2.5mg/5mg OD錠1.25mg OD錠2.5mg OD錠5mg | セララ錠25mg/50mg/100mg | アルダクトンA細粒10% アルダクトンA錠25mg/50mg | トリテレン・カプセル50mg |
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一般名 | エサキセレノン | エプレレノン | スピロノラクトン | トリアムテレン |
製造販売元 | 第一三共株式会社 | ヴィアトリス製薬株式会社 | ファイザー株式会社 | 京都薬品工業株式会社 |
また、その他個人輸入で購入できる医薬品も多数販売されています。
水利尿薬を服用する際の注意点
注意①
サムスカは尿の量を増やす作用があるため、のどの渇きを感じることがよくあります。
この時は水分補給が大切です。水を飲まずに放置していると脱水症状や血中ナトリウム濃度の上昇による重い副作用を引き起こす可能性があります。
特に寝る前と排尿のたびに水分を取ることを心がけましょう。自覚症状がなくても少しずつ脱水が進行していることがあるため、こまめな水分補給が重要です。
のどの渇きを感じたら待つことなく水を飲み、できるだけ「渇いた」という状態に陥らないよう早めの水分補給を心がけることが大切です。
注意②
- グレープフルーツジュースとの併用は避けてください。副作用が出やすくなる可能性があります。
- セントジョーンズワート含有の食品も併用に注意が必要です。
- 服用を忘れてしまった場合、できるだけその日の内に1回分を飲んで補充しましょう。
ただし次の飲む時間が近い時は1回分飛ばして、次の予定時間に飲むようにします。2回分を一気に飲まないことが大切です。
このように、トルバプタンは効果的な反面、飲み合わせに注意が必要な薬剤です。利尿作用を最大限得るためにも、グレープフルーツジュースの摂取禁止や飲み忘れへの対処法を守ることが大切です。
注意③
サムスカは強力な利尿作用があるため、飲み始めると尿の回数や量が多くなります。
就寝前の服用は避けて、夜のトイレ回数を減らしましょう。就寝前4時間以上あけるようにしてください。
水分補給には水やお湯がおすすめです。カフェインや糖分の取り過ぎに注意しましょう。過剰な刺激やカロリーは好ましくありません。
また、服用中に嘔気や頭痛などの症状が出た場合は医師の診察を受けることが大切です。
このようにサムスカは効果的な反面、生活上の注意点も多くあります。尿量の変化への対応や、飲み合わせの確認などを心がけ、適正に使用していきましょう。
注意④
次のような症状に注意が必要です。これらが出現した場合は速やかに病院を受診しましょう。
- 肝機能低下を示唆する黄疸や食欲不振、かゆみなど
- 口渇・脱水症状の自覚があれば水分補給を行うが改善しない場合
- 意識混濁など高ナトリウム血症を疑わせる症状
- 眼の異常な痛みや視力低下などの症状
- 痛風や高尿酸血症を示唆する症状
- めまい、立ちくらみなどの自覚がある場合
これらの症状が出現した際は服用を中止し、直ちに受診し指示を受けましょう。
転倒に注意し、自動車の運転など危険を伴う作業も控える必要があるでしょう。必要に応じて肝機能検査や血液検査を受け、医師の管理下で安全に使用し続けることが大切です。
注意⑤
- サムスカでは動物実験で奇形発生が報告されているため、妊娠の可能性がある人は確実な避妊が必要です。
妊娠が判明したら直ちに医師に相談しましょう。 - 授乳中の人も子どもへの影響があるため医師に相談が必要です。
- 子どもへの効果及び安全性が確認されていないことから、自分の判断で子どもに服用させてはいけません。
水分摂取困難などで重大な影響が出やすいため危険です。 - 他の病気の治療でもサムスカの影響が出る可能性があるため、必ず他医療機関の医師や薬剤師にも服用していることを告知しましょう。
以上のように、サムスカは妊娠・授乳中や小児への投与には十分な注意が必要です。
水利尿薬に関するよくある質問
- Q心不全で利尿薬を飲むのはなぜですか?
- A
心不全では心臓の収縮力が低下するため、腎臓への血流量が減少します。
その結果、体内に水やナトリウムが貯留しやすくなります。
こうした体液の過剰貯留は心臓への血行動態の負荷となり、症状をさらに悪化させます。
利尿薬は腎臓の働きを補助することで水やNaの排出を促進し、循環血液量の過剰な増加を防ぎます。
心臓からの血液供給が不十分な状態で、体液過剰が重なることは心臓に大きなストレスとなります。
利尿薬はこの水やナトリウム過剰状態を改善し、心臓の負担自体を軽減する効果があるのです。
つまり、心不全に対して利尿薬が用いられるのは、水分排出を高めることで循環血液量の過剰増加を抑え、心臓の働きを楽にするためです。
- Qアルコールは飲んでも大丈夫ですか?
- A
トルバプタンは強力な利尿作用がある薬剤のため、アルコールとの併用時に脱水症状のリスクが高まります。
ただし、ほどほどの節度ある飲酒であれば問題は少ないと考えられます。大事なのはアルコールと別に十分な水分摂取を心がけることです。アルコールの影響でのどの渇きを感じにくくなることがあるため、常日頃以上に水やスポーツドリンクで水分補給をする習慣が必要です。
過度の飲酒は脱水症状の危険性が高いので避けるべきでしょう。
トルバプタンを飲んでいる以上、普段よりも水分摂取を心がける生活が欠かせません。ほどほどの飲酒なら制限の必要はないと考えられますが、水分はこまめに摂取しましょう。
- Qトルバプタン服用で、多発性嚢胞腎を治すことはできますか?
- A
トルバプタンは多発性嚢胞腎を治すくすりではありません。
多発性嚢胞腎の原因物質であるバソプレシンの作用を阻害することで、嚢胞の成長速度を抑えます。しかし、すでに存在する嚢胞自体をなくす効果はありません。
したがって、この薬を使って多発性嚢胞腎そのものを完全に治癒することはできません。
ただし長期継続使用により、腎機能低下の進行を遅らせ、人工透析導入までの期間をある程度延長できる効果が期待されています。
つまりサムスカは病気の進行速度を抑制する治療薬であり、決して根本的な治癒薬ではないということです。継続的な内服が欠かせないのは、その疾患の急速な進行を阻止させるためです。
薬の効果と限界を理解し、腎機能保持に尽力する必要があります。
まとめ
利尿薬は、体内の余分な水分やナトリウムを排泄し、浮腫や高血圧などの症状を改善するために使用される薬剤です。その中でも水利尿薬と呼ばれるトルバプタンは、過剰な水分の蓄積を抑えることで、浮腫や心不全などの症状を軽減する効果があります。
他の利尿薬と比較して、トルバプタンは、従来の利尿薬とは異なるメカニズムで作用します。
従来の利尿薬は、腎臓でのナトリウムや水の再吸収を抑制することで利尿効果を発揮しますが、トルバプタンはホルモンである抗利尿ホルモン(バソプレシン)の作用をブロックすることで、その効果を発揮します。
トルバプタンを服用する際には、適切な投与量とタイミングが重要になります。また、副作用や相互作用にも注意が必要です。
例えば、低ナトリウム血症や脱水症状を引き起こす可能性があるため、注意深く投与する必要があります。
トルバプタンは特定の状況や疾患に対して有効な治療法であるとされていますが、医師の指示に従い、適切な管理のもとで使用することが重要になります。
自己調整や過剰摂取は避け、主治医の指示に従って服用を継続し治療を行うようにしましょう。
出典
サムスカOD錠7.5mg/15mg/30mg/顆粒1%添付文書
入院でトルバプタン「トーワ」を服用される方へ
ADPKD(常染色体優性多発性嚢胞腎)(大塚製薬株式会社)