円形脱毛症とは

円形脱毛症とは、自己免疫疾患の一種で、あるきっかけで免疫機能が誤作動し、毛包周囲を攻撃してしまう病気です。
症状は頭部や眉毛、まつげ、髭、体毛など、身体のどこにでも円形の脱毛斑が現れます。
頭部に1か所だけの単発型から、多発したり全頭型、全身に及ぶ汎発型などがあります。全頭型や汎発型ほど治りにくい傾向があるそうです。
発症のきっかけは不明ですが、遺伝的な体質の関与が示唆されています。一生に一度だけのこともあれば、再発を繰り返す人もいます。
円形脱毛症は外見上のストレスは大きいですが、生命に関わる疾患ではありません。
早期発見と適切な治療により、多くの場合脱毛をコントロールできるようです。ストレスは避けつつ、前向きな姿勢で乗り越えていきたいものです。
円形脱毛症の原因となりやすい人

円形脱毛症で毛が抜ける原因には、大きく分けて以下の5つがあると考えられています。どの様な人がなりやすいのかを踏まえて詳しく解説していきます。
自己免疫疾患との関連
円形脱毛症の主要な原因として、免疫機能の異常が挙げられます。Tリンパ球が毛根を異物と見なして攻撃し、毛根が傷つき、結果として髪が抜け落ちると考えられています。
これは自己免疫疾患の一形態であり、なぜこの異常な免疫反応が発生するかはまだ解明されていません。
また、円形脱毛症は橋本病(はしもとびょう)や尋常性白斑(じんじょうせいはくはん)、SLE(全身性エリテマトーデス)、関節リウマチ、重症筋無力症(じゅうしょうきんむりょくしょう)などの自己免疫疾患と併発することがあります。
特に甲状腺疾患(こうじょうせんしっかん)は円形脱毛症との関連が高く、これらの疾患が共通する免疫機構の異常が考えられています。
アトピー素因の影響
円形脱毛症患者の約40%以上がアトピー素因を持つとされ、そのうち半数以上が本人もしくは家族にアトピー性疾患が見られるとの報告があります。アトピー素因を持つことが円形脱毛症の発症に影響を与える可能性が高まっています。
日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン2017年版
精神的ストレスの影響
精神的ストレスが円形脱毛症の発症要因の一つとされています。
長期間の強いストレスにより、交感神経が異常に活発化し、血管収縮や頭部への血流の低下が引き起こされます。これが毛根への栄養供給不足を招き、脱毛が発生する可能性があります。
また、疲労や感染症などの肉体的・精神的なストレスも、免疫機能の異常を引き起こす可能性があり、これが円形脱毛症の原因となることが考えられています。
遺伝的要素の影響
円形脱毛症は遺伝的な要因が関与している可能性が高く、親等が近いほど発症率が高まり、遺伝的背景が発症に影響を与えていると考えられています。
出産後の女性ホルモンの変化
女性の場合、妊娠中の女性ホルモンの急激な増加と、出産後の急激な減少が円形脱毛症の発症要因となることがあります。このホルモンの変動が、毛周期の異常を引き起こし、抜け毛が生じる可能性があります。
円形脱毛症の原因は複雑で多岐にわたりますが、自己免疫疾患や遺伝的要因、アトピー素因、精神的ストレス、出産後のホルモン変動が関与している可能性が高いとされています。これらの要因が複合的に影響し合い、円形脱毛症の発症を促進することが考えられます。
円形脱毛症とAGAの違い
円形脱毛症とAGA(男性型脱毛症)はともに抜け毛の症状を示す脱毛症ですが、発症原因の違いから以下の点で特徴が異なります。
発症対象者の違い
円形脱毛症は免疫機能低下が原因のため、男女や年齢を問わず発症します。
一方AGAは男性ホルモンとの関連が大きく、思春期以降の成人男性に多いのが特徴です。
抜け毛の範囲の違い
円形脱毛症では頭部の特定の部位に円形に毛髪が抜け落ちます。
AGAは頭頂部を中心に徐々に抜け毛が拡大していきます。
進行スピードの違い
円形脱毛症の進行は抜け毛が2~3日の極めて短期間で進みます。そのため、本人が気づく前に脱毛が進行していることもあります。AGAはゆっくりとしたペースで年単位で進行します。
初期段階では「髪が以前より薄くなったかもしれない」という程度の認識です。
このように発症機序の違いから、対象者、範囲、スピードの違いが出てきます。このコラムを参考にしていただき自身のパターンを理解することが大切です。
円形脱毛症5つの種類

円形脱毛症には、重症度によって大きく5つの種類に分類することができます。
単発型円形脱毛症
頭髪や眉毛、体毛などに円形の脱毛斑ができる最も一般的なタイプです。
8割弱は1年程度で自然治癒します。
多発型円形脱毛症
複数の脱毛斑ができ、1つに治癒しても新たな脱毛斑ができることが特徴です。
治療に1~2年程度を要します。
蛇行型(だこうがた)円形脱毛症
細長い脱毛斑が連なり、頭の横の生え際部にそって広がるパターンです。
治療期間が長引きやすいタイプの一つです。
全頭型(ぜんとうがた)円形脱毛症
最終的に頭全体の毛髪が抜け落ちてしまうタイプです。
治療と並行してウィッグ等の使用が必須なケースが多いです。
汎発型(ばんぱつがた)円形脱毛症
頭髪全体はもとより、全身の体毛が抜けてしまう最も重度なタイプです。
全頭型以上に治療と補助具が欠かせません。
このように円形脱毛症にも重症度の種類があり、症状に応じた対応が必要です。早期発見と適切な治療が大切です。
円形脱毛症の治療方法

円形脱毛症は自己免疫疾患の一種で、毛包を攻撃する免疫細胞によって毛の成長が阻害されます。
残念ながら完治する治療法はまだありませんが、症状を改善させる治療方法の中でも最も推奨される治療法として以下の3点をご紹介します。
ステロイド局所注射
脱毛部位に直接ステロイドを注入することで免疫反応を抑え、毛の再生を促します。
効果は高いものの、注射時の痛みや副作用のリスクがあることに注意が必要です。
局所免疫療法
化学物質で意図的に皮膚の炎症反応を起こし、それによって免疫バランスを再構築することで脱毛に働きかけます。
副作用の可能性があるものの、比較的長期的な効果が期待できます。
JAK (ヤヌスキナーゼ)阻害薬
免疫反応そのものを抑制する経口薬で、重症例に対して期待が持たれています。
副作用として感染症が多く報告されていますが、有望な治療法といえそうです。
いずれにしろ完治は難しく、薬物療法と併用しながらも心理面のサポートが大切だと考えられます。今後も新しい治療法の開発が進められることが期待されます。
この他の治療法として内服薬及び外用薬による治療方法があります。
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その他病院で行われる治療法
冷却治療
円形脱毛症に対する治療法の一つとして注目されるのが冷却治療です。ドライアイスや液体窒素を使用して、脱毛斑に直接あてることで、誤作動を起こした免疫細胞の活動を抑え、毛髪の再生を促進します。
治療は簡便であり、軽い痛みがあるものの、副作用はほとんどないとされています。
紫外線療法
アトピー性皮膚炎や尋常性乾癬などにも応用される紫外線療法は、円形脱毛症に対しても一定の成果を上げています。PUVA治療法、ナローバンドUVB療法、エキシマレーザー療法などがあり、治療の回数や頻度は症状によって異なります。
しかし、肌の炎症からくる一時的な不快感や水ぶくれなどの副作用があるため、患者はこれを理解し、適切なケアを受ける必要があります。
直線偏光近赤外線照射療法(スーパーライザー療法)
スーパーライザー療法では、特殊な赤外線を脱毛斑に照射することで治療を行います。この治療法は痛みや腫れを軽減する鎮痛と消炎効果があり、筋肉や関節の治療にも応用されています。
全身の血行を良くする効果から、自律神経失調症の治療にも利用されています。
簡便で軽い副作用があるため、単発型や多発型の治療に選択されることがあります。
点滴静注ステロイドパルス療法
発症後6か月以内の重症例に対して有効なのが、点滴静注ステロイドパルス療法です。短期間で大量のステロイドを投与し、急速に進行する症状に対抗します。
しかしこの治療法は発症後6か月以降の患者には限定的であり、早期の段階での適切な介入が重要です。副作用には注意が必要ですが、効果は発症後早期の重症患者において見られることが報告されています。
これらの治療法は円形脱毛症に対する現代医学の進歩を反映しており、患者と医師が協力して最適な治療プランを見つけることが大切です。
円形脱毛症の予防法や早期発見のサイン
予防法

円形脱毛症は遺伝的な要因や免疫反応によって引き起こされる病気であり、完全な予防法は存在しません。
しかし、日常生活で特定の習慣を取り入れることで、髪や頭皮の健康をサポートし、円形脱毛症の発症リスクを軽減することができます。
栄養バランスの摂取
たんぱく質の摂取:髪はたんぱく質で構成されています。良質なたんぱく質を摂取し、髪の成長に必要な栄養を補給しましょう。
- 亜鉛の摂取
亜鉛は毛母細胞の増殖を促進し、男性ホルモンの発生を抑制する作用があります。肉類やナッツ、豆類などから亜鉛を摂取することが重要です。 - ビタミンの補給
代謝や血流を促進するビタミンは、頭皮の環境を整え、他の栄養素の吸収を助けます。特にビタミンA、C、Eが重要です。
良質な睡眠の確保
質の高い睡眠:ノンレム睡眠とレム睡眠のバランスを整え、質の高い睡眠を確保します。深夜24時以降の就寝は避け、睡眠環境を整えることでストレス耐性を向上させましょう。
適度な運動
適度な運動は血行を良くし、髪や頭皮に栄養を供給します。軽い運動を心がけ、健康な生活習慣を築きましょう。
ストレスの管理
ストレスは円形脱毛症の誘因となります。定期的なリラックス法やストレス解消法を取り入れ、心身の健康を保つことが大切です。
以上のポイントを意識することで、健康な髪を育て、円形脱毛症のリスクを軽減することが期待できます。
ただし、遺伝的な要因も考慮に入れ、万全の予防を期するには、定期的な健康チェックや専門医の相談も重要です。
円形脱毛症に関する症状が出た場合は、早期の専門医の診断と治療が必要です。
早期発見のサイン

髪の毛の表面の変化
円形脱毛症が進行すると、髪の毛の表面が荒れ、ゴワゴワとした感触が現れることがあります。これは、毛包周囲の炎症が髪の質を変化させるためです。頭皮の表面が異常に感じた場合は、触れた際の違和感に注意しましょう。
チクチクやピリピリした違和感
円形脱毛症による炎症が進むと、頭皮にチクチクやピリピリした違和感を感じることがあります。
これは免疫反応が働いているサインであり、頭皮の状態に異常が生じている可能性があります。違和感が持続する場合は、早めの専門医の診断が必要です。
抜けた髪の毛のチェック
ブラッシングやシャンプーの際に抜けた髪の毛をチェックすることも重要です。毛根がついているかどうかを確認しましょう。毛根がついている場合は、通常の生え替わりであり心配はありませんが、毛根がついていない場合は炎症によって髪の毛が抜けている可能性が高まります。
このような場合は、早急に医師の診断を受けることが必要です。
まれな毛根の変化
円形脱毛症ではまれに毛根の形状に変化が見られることがあります。毛根が細くなったり、異常な形状をしている場合は、早期のサインとなります。毛根の変化を見逃さず、異変を感じた際は迅速な医療相談が必要です。
円形脱毛症は早期発見が治療の鍵となります。頭皮の変化や抜け毛に注意を払い、サインを見逃さないようにしましょう。
自己免疫疾患に関する異常な症状が見られた場合は、専門医の診断と相談を受け、適切な治療を受けることが大切です。
円形脱毛症に関するQ&A
- Q円形脱毛症は何科を受診したらよいですか?
- A
円形脱毛症は「皮膚科」が専門となります。まずはお近くの皮膚科を受診し相談してみましょう。
- Q円形脱毛症になった場合、病院を受診したほうがよいのですか?
- A
はい、円形脱毛症と思われる場合はできるだけ早い段階で医師の診断を受けることをおすすめします。
円形脱毛症は自己免疫疾患の一種で、突然ある部位の毛髪が抜け落ち円形の脱毛部ができる疾患です。原因はよく分かっていませんが、ストレスなどが引き金になるとされています。
早期に医師の診断を受けるメリットは以下の通りです:
・正確な病名の特定ができる
・他の疾患との鑑別ができる
・適切な治療を早期に開始できる
・脱毛の進行をある程度防げる可能性がある
治療法としてはステロイド外用薬の使用や紫外線照射などがあります。完治は難しいですが、症状の改善や進行の緩和は期待できます。
また、脱毛による外観の変化や治療のストレスなど、メンタルなサポートが必要な場合もあります。
以上から、円形脱毛症と思われる症状がある場合はできる限り早く医師の診断を受けることをおすすめします。適切な治療により予後の改善が期待できます。
- Q市販されている育毛剤を使用しても良いですか?
- A
はい、円形脱毛症の治療中に生え始めの軟毛がみられる場合、市販の育毛剤を使用して育毛を促すことができます。育毛剤の効果の現れ方や程度は人によって異なりますが、軟毛の成長期に適切な育毛剤を使用することで、ある程度育毛効果を高めることが期待できます。
ただ完治を保証するものではありませんし、使用を中止すると元の状態に戻ることがあります。継続的な使用が必要となります。
以上を踏まえ、治療中に使用する場合には医師に確認の上使用すると良いでしょう。
まとめ
円形脱毛症は、自己免疫疾患に分類される毛髪の脱毛症状を起こす疾患です。免疫機能の異常により毛包が攻撃され、脱毛部位が円形に現れるのが特徴です。
原因は不明な点も多いですが、遺伝的体質、アトピー体質、ストレスなどが関係していると考えられています。
症状の程度によって単発型、多発型、全頭型などの種類に分類され、重症度に応じた治療法の選択が必要です。
ステロイド注射、免疫抑制薬内服、局所療法などいくつかの治療法がありますが、完治は難しく対症療法的な側面が強いのが現状です。
予防法は確立されていませんが、バランスの良い食生活、ストレスコントロール、適度な運動などで体の抵抗力を高めることが望まれます。また、髪や頭皮の変化に注意し、早期発見に努めることが大切です。
円形脱毛症は原因が特定されにくい疾患ですが、適切な治療とケアにより、多くの場合症状の進行を止めることができます。
医師の指示に従い、専門的な治療を受けることが重要です。
出典
円形脱毛症診断ガイドライン2017
男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017年版