スピロノラクトンによる「女性化乳房」とは?

スピロノラクトンは高血圧や心不全の治療によく使われる利尿剤です。
男性が服用した場合「女性化乳房」(胸が膨らむ状態)という副作用が一定の頻度で報告されています。
今回は、スピロノラクトンの作用と女性化乳房の関係、その対処法について、わかりやすく解説していきます。
スピロノラクトンとは
スピロノラクトンは、体内の余分な水分や塩分を排出することで様々な症状を改善する「利尿薬」です。
一般的に「アルダクトン錠」という商品名で処方されます。
単に水分を排出するだけでなく、体内のホルモンバランスにも作用する点が特徴で、ニキビや女性の薄毛治療にも用いられます。
また、男性ホルモン(テストステロン)の働きを抑える作用があります。
そのため、男性が服用した場合には副作用として「女性化乳房」が現れることがあります。
利尿薬というと「トイレが近くなる薬」や「ダイエットに効果がある」というイメージを持つ方も多いかもしれません。
スピロノラクトンには尿量を増やす作用がありますが、他の利尿薬に比べるとその作用はやや弱めです。
その代わり、体内のカリウム(電解質)を保持する性質があり、他の利尿薬と異なる特性を持っています。
スピロノラクトンは主に以下の病気の治療に使われます。
スピロノラクトンか使われる主な病気
- 高血圧症(血圧が高い状態)
- むくみ(浮腫)
- 心不全(心臓が悪く十分な血液が送り出されない状態)
- 肝硬変による腹水(お腹に水がたまった状態)
- 原発性アルドステロン症(ホルモン異常による病気)
▼メデマート取り扱い商品
| 商品名 | スピロノラクトン | シレクトン | スピロラクト |
|---|---|---|---|
| 画像 | ![]() | ![]() | ![]() |
| 有効成分 | スピロノラクトン100mg | スピロノラクトン25mg/50mg/100mg | スピロノラクトン25mg |
| メーカー | Haupt Pharma(ハウプトファーマ) | Johnlee Pharmaceuticals(ジョンリーファーマ) | Prevego(プリベゴ) |
| URL | スピロノラクトンの購入はこちら | シレクトンの購入はこちら | スピロラクトの購入はこちら |
女性化乳房の主な症状
スピロノラクトンを服用している男性に起こりうる「女性化乳房」の症状は主に以下の5点があげられます。
①乳房の腫れや膨らみ
片側または両側の乳房が膨らんだように感じる
②乳首周辺の膨らみ
特に乳首の下の組織が大きくなる
③乳房の痛みや触ると痛い感覚
軽く触れるだけでも痛みを感じることがある
④乳首の感覚過敏
乳首が通常より敏感になることがあります
⑤心理的な不快感
見た目の変化による心理的ストレスを感じることがあります
これらの症状は、服用期間が長い場合や服用量が多い場合にみられることが多いですが、個人差があります。
女性化乳房は、見た目の変化だけでなく、触ると痛みを感じることもありますが、乳腺組織が成長する過程で神経が刺激されるためです。
これは乳がんなどの悪性疾患とは異なり、薬の影響によるものなので、安心してください。
女性化乳房は命に関わる副作用ではありませんが、生活の質に大きな影響を与えることがあります。
女性化乳房はなぜ起きる?
スピロノラクトンによる女性化乳房は、体内のホルモンバランスの変化によって起こります。
私たちの体には、男性ホルモンと女性ホルモンの両方が存在しており、その比率が性別による体の特徴を形づくっています。
一般的に、男性は男性ホルモン(テストステロン)が多く、女性は女性ホルモン(エストロゲン)が多い状態です。
この比率のバランスによって、男性らしい体つきや女性らしい体つきが作られています。
スピロノラクトンは男性のホルモンバランスに対して以下の3つの影響を及ぼします。

①男性ホルモンの生成を抑える
体内でのテストステロンの生成を減らす
②男性ホルモンの受容体をブロックする
テストステロンが細胞に作用するのを妨げる
③女性ホルモンの影響を相対的に強める
エストロゲンの分泌を直接増やすわけではないが、男性ホルモンが減ることで相対的に女性ホルモンの作用が強まる
これらの作用によって、体内のバランスが男性ホルモン優位 → 女性ホルモン優位へと傾きます。
ホルモン比率が変化すると、通常は刺激されにくい乳腺組織が女性ホルモンの影響を受けて発達し始めます。
その結果、男性でも乳房が膨らんでくることがあり、これが「女性化乳房」の正体です。
▼ホルモンバランスの変化が起こりやすい5つの条件
①高用量のスピロノラクトンを服用している場合
②長期間にわたってスピロノラクトンを服用している場合
③もともと肝機能が低下している場合(薬の代謝が遅くなり普通より長い時間体内で作用する)
④高齢の男性(年齢とともに男性ホルモンが自然に低下するため)
⑤肥満の方(脂肪組織でホルモン変換が起こりやすいため)
女性化乳房への対処法は?
女性化乳房になってしまったものの恥ずかしくて一人で悩んでいませんか?
元に戻るのか心配ですよね。
でもだからと言って現在の治療を自己判断で中止する訳にはいきません。
その上でどのような対処法があるのか見ていきましょう。
主な対処方法

スピロノラクトンによる女性化乳房が生じた場合、症状の程度や体への影響に応じて、いくつかの対処法があります。
自己判断で薬を中止せず、必ず医師と相談しながら最適な方法を選ぶことが大切です。
対処法1:薬の減量または中止
最も一般的な対処法は、スピロノラクトンの服用量を減らすか、完全に中止することです。
多くの場合、薬の量を減らすだけでも症状の進行を止めることができます。
ただし、減量や中止の判断は自己判断では行わず、必ず医師の指示に従ってください。
対処法2:代替薬への変更
スピロノラクトンの代わりに、同様の効果を持ちながら副作用の少ない薬へ切り替えることもあります。
代表的な選択肢としては、次のようなものがあります。
代表的な選択肢
- エプレレノン(セララ):スピロノラクトンと似た作用を持ちますが、女性化乳房の副作用が少ないとされています。
- 他の利尿薬(ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬など)
- 他の降圧薬(カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬など)
医師は患者さんの病状や合併症を考慮して、最も適した薬を選択します。
対処法3:経過観察
軽度の女性化乳房であれば、薬の中止後に自然に改善していく場合もあります。
一般的には、時間の経過とともに腫れが引いていきますが、長期間スピロノラクトンを使用していた場合は、改善までに時間がかかることがあります。
まれに症状が持続する場合には、ホルモン療法による治療が検討されることもあります。
対処法4:外科的治療
薬の調整や経過観察でも改善がみられない場合、外科的治療が選択肢となることがあります。
具体的には、以下のような手術が行われます。
- 乳房縮小術(にゅうぼうしゅくしょうじゅつ)
- 乳腺切除術(にゅうせんせつじょじゅつ)
これらは一般的に最終的な手段として行われ、多くの場合は薬物治療の調整で対応可能です。
対処法5:生活習慣の改善
補助的な対策として、以下のような生活習慣の改善も役立つことがあります。
- 適正体重の維持:肥満は女性化乳房を悪化させることがある
- バランスの良い食事:特に植物性エストロゲンを多く含む大豆製品の過剰摂取を避ける
- 定期的な運動:筋肉量を増やすことで男性ホルモンのバランスを改善する可能性がある
単純に中止すればいい、というだけではない重要な注意点
スピロノラクトンによる女性化乳房が現れたからといって、すぐに薬を中止すればよいというわけではありません。
なぜ中止が最適解では無いかと言うと以下の重要な注意点があるからです。
注意点1:自己判断での中止は危険
スピロノラクトンは高血圧や心不全などの重要な病気の治療に使われています。
自己判断で急に中止すると、元の病気が急激に悪化する危険があります。
特に心不全の患者さんでは命に関わることもあります。
注意点2:代替治療にはリスクが伴う
スピロノラクトンを中止する場合、多くのケースで代替薬への切り替えが必要になります。
しかし、代替薬が必ずしも完全に同じ効果を発揮するとは限りません。
もとの病気がスピロノラクトンで安定していた場合、薬の切り替えによって再び治療の調整が必要になることもあります。
注意点3:改善に時間がかかる場合がある
女性化乳房の症状は、薬を中止してもすぐには改善しないことがあります。
特に長期間スピロノラクトンを服用していた場合や、症状が進行していた場合は、完全に元の状態に戻るまでに数カ月から1年以上かかることもあります。
また、残念ながら完全には元に戻らず症状が持続する場合もあります。
注意点4:心理的サポートの重要性
女性化乳房は外見に変化をもたらすため、心理的なストレスを感じる方も少なくありません。
人前で上半身を見せることに抵抗を感じたり、サウナや温泉などを避けるようになったりするケースもあります。
必要に応じて、心理カウンセラーや医療スタッフへの相談を検討することも大切です。
注意点5:定期的な経過観察
スピロノラクトンを中止・減量した後も、定期的に医師の診察を受けることが重要です。
代替薬に変更した場合は、元の病気(高血圧・心不全など)が適切にコントロールできているかを確認する必要があります。
定期的な経過観察により、再発や副作用の悪化を防ぐことができます。
注意点6:併用薬の影響
スピロノラクトンは比較的相互作用の少ない薬ですが、他の薬を併用している場合は注意が必要です。
なぜなら、他の薬にも女性化乳房を引き起こす可能性があるからです。
たとえば、一部の抗うつ薬や抗精神病薬などが該当します。
複数の薬を服用している場合、スピロノラクトンだけが原因とは限らず、相互作用によって副作用が強まる可能性もあります。
現在服用している薬は、すべて医師に伝えることが大切です。
なぜスピロノラクトンだけ?他の利尿剤との違い

「利尿剤なら他にもあるのに、女性化乳房を起こしやすいのはなぜスピロノラクトンだけなの?」
この疑問に答えるには、スピロノラクトンが他の利尿剤と根本的に異なる作用機序を持つ点を理解する必要があります。
【スピロノラクトンの特殊な作用機序】
利尿剤は主に4つのタイプに分けられます。
①ループ利尿薬(フロセミド、トラセミドなど)
②サイアザイド系利尿薬(ヒドロクロロチアジドなど)
③カリウム保持性利尿薬(スピロノラクトンなど)
④バソプレシンV2受容体拮抗薬(トルバプタンなど)
このうち、スピロノラクトンは「カリウム保持性利尿薬」に分類されますが、他の利尿薬と大きく異なる点は「ホルモン様作用」を持つことです。
化学構造が男性ホルモン(アンドロゲン)や女性ホルモン(エストロゲン)に似ており、性ホルモン受容体にも作用してしまう点が特徴です。
具体的には次のような特徴があります。
1:アンドロゲン(男性ホルモン)受容体への作用
スピロノラクトンはアンドロゲン受容体をブロックし、男性ホルモンの働きを弱めます。
これにより、体内のアンドロゲン活性が下がり、相対的にエストロゲンの影響が強まるため、女性化乳房が起こることがあります。
この作用は他の利尿剤には見られません。
2:アルドステロン受容体への作用
本来の主目的は、アルドステロンというホルモンの作用を抑えることです。
アルドステロンは塩分と水分のバランスを調節しますが、スピロノラクトンはその受容体に結合して作用を抑制します。
この作用自体は女性化乳房には直接関係しませんが、ホルモン受容体に作用する薬であることが副作用発現の背景になります。
3:エストロゲン(女性ホルモン)への影響
スピロノラクトンは弱いながらもエストロゲン様作用を持ち、男性ホルモンの働きを抑えることで、結果的に女性ホルモンの影響を強めることがあります。
【他の利尿薬との比較】
他の利尿剤(ループ系・サイアザイド系)は、性ホルモン受容体には作用しません。
そのため、同じ「利尿薬」でも女性化乳房の副作用はほとんど起こりません。
では、同じカリウム保持性利尿薬の中ではどうでしょうか?
たとえばエプレレノンはスピロノラクトンの改良型で、受容体選択性が高いため、性ホルモン受容体への影響が少なくなっています。
この違いにより、エプレレノンでは女性化乳房の発現頻度が低いと報告されています。
つまり、スピロノラクトンは利尿剤の中でも唯一ホルモン受容体に影響する特異な薬であり、この性質こそが副作用の原因なのです。
【スピロノラクトンの利点と女性化乳房のリスクバランス】
では、女性化乳房のリスクがあるにもかかわらず、なぜ今も使われ続けているのでしょうか?
それは、スピロノラクトンには次のような明確な利点があるからです。
- 長年の使用実績と豊富なデータ:数十年にわたる臨床経験があり、安全性と有効性が確立
- 多面的な治療効果:利尿作用に加え、アルドステロン拮抗・抗アンドロゲン作用を併せ持つ
- 費用対効果の高さ:新しい薬剤に比べて安価で、経済的にも利用しやすい
- 特定疾患への有効性:原発性アルドステロン症や女性の多毛症など、特定の症状で特に有用
こうした理由から、医師はリスクとベネフィットを総合的に判断して処方を行います。
現在では、特に若年男性や外見変化を気にする患者には、エプレレノンなどの代替薬を選ぶケースが増えています。
まとめ
スピロノラクトンは高血圧や心不全などの治療に広く使われる素晴らしい薬です。
その特殊な作用機序は男性患者に「女性化乳房」という副作用を引き起こすことがあります。
これは薬が男性ホルモンの働きを抑え、相対的に女性ホルモンの影響が強まることで起こる現象です。
女性化乳房の症状には乳房の腫れや痛み、乳首の感覚過敏などがあります。
対処法としては薬の減量・中止、代替薬への変更が一般的です。
ただし、自己判断での薬の中止は危険なため、必ず医師に相談することが大切です。
スピロノラクトンが他の利尿薬と大きく異なる点は、アルドステロン受容体だけでなく性ホルモン受容体にも作用する点です。
特に男性ホルモン受容体をブロックする作用があるため、女性化乳房という副作用が生じます。
同じ分類でより新しい薬であるエプレレノンでは、この副作用が大幅に減少しています。
女性化乳房は薬を中止しても改善に時間がかかることがありますが、生命に関わるような深刻な副作用ではありません。
相談するには恥ずかしさが伴いますが、医師との協力関係があれば十分に対処できる問題です。
気になる症状があれば早めに医療機関を受診し、あなたの生活スタイルに合った最適な治療法を見つけることをおすすめします。
出典
アルダクトンA錠25mg/50mg添付文書
アルダクトンA錠25mg/50mgインタビューフォーム
日経メディカル(エプレレノン:日本初の選択的アルドステロン阻害薬)
お薬Q&A 〜Fizz Drug Information〜(『セララ』と『アルダクトン』、同じミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の違いは?~女性化乳房の副作用と相互作用)







