利尿薬で血糖値が上がる副作用とは?

利尿薬は余分な水分と塩分を尿として排出することでむくみを取ったり、血圧を下げる働きがあります。
しかし、水分と一緒に体に必要な成分まで排出されてしまうことがあります。
その一つが「カリウム」という電解質(ミネラル)です。
この電解質というものは私たちの筋肉が正常に働くために重要な役割を果たしていますが、それだけではありません。
体内のカリウムが減ると、「血糖値」が上昇することがあります。
このカリウム減少による血糖値上昇が、利尿薬の主な副作用の一つとなっています。
日本で販売されている利尿薬には大きく4つの種類があります。
①ループ利尿薬(フロセミド、アゾセミドなど)
②チアジド系利尿薬(ヒドロクロロチアジドなど)
③カリウム保持性利尿薬(スピロノラクトン、エプレレノンなど)
④バソプレシンV2受容体拮抗薬(トルバプタンなど)
この中で、血糖値上昇が報告されているのは主に次の2種類です。
チアジド系利尿薬
高血圧治療の第一選択薬としてよく使われますが、血糖値上昇の副作用が比較的よく知られています。
ループ利尿薬
主に心不全や腎臓病による体のむくみの治療に使われることが多いです。
チアジド系と比べると血糖値上昇の頻度は低めですが、同様のメカニズムで血糖上昇が起きる場合があります。
「え、じゃあ利尿薬は危険なの?」と思われるかもしれませんが、そうとは限りません。
この副作用は一部の方に起こるものであり、医師の指導のもとで使用すれば過度に心配する必要はありません。
大切なのは、この可能性を知った上で、定期的に血液検査を行い血糖値をチェックすることです。
利尿薬には便秘や痛風といった副作用も出る可能性があります。
これら副作用についての詳細は当サイトメデマートの別コラムで紹介されています。
【メデマート取り扱い商品】
▼ループ利尿薬
| 商品名 | トーシミド | トール | ムクミトール |
|---|---|---|---|
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| 有効成分 | トラセミド5mg/10mg/20mg/40mg/100mg | トラセミド5mg/10mg/20mg | トラセミド5㎎/10㎎/20㎎ |
| メーカー | John Lee Pharma(ジョンリーファーマ) | Intas Pharmaceuticals(インタスファーマ) | Asle pharmaceuticals(アスレ) |
| 購入サイト | トーシミドの購入ページ | トールの購入ページ | ムクミトールの購入ページ |
▼チアジド系利尿薬
| 商品名 | アクアザイド |
|---|---|
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| 有効成分 | ヒドロクロロチアジド25mg |
| メーカー | Sun Pharma (サンファーマ社) |
| 購入サイト | アクアザイドの購入ページ |
▼カリウム保持性利尿薬
| 商品名 | スピロノラクトン | シレクトン |
|---|---|---|
| 画像 | ![]() | ![]() |
| 有効成分 | スピロノラクトン100mg | スピロノラクトン25mg/50mg/100mg |
| メーカー | Haupt Pharma(ハウプトファーマ) | Johnlee Pharmaceuticals(ジョンリーファーマ) |
| 購入サイト | スピロノラクトンの購入はこちら | シレクトンの購入はこちら |
▼バソプレシンV2受容体拮抗薬
| 商品名 | トルバプタン | ナトライズ |
|---|---|---|
| 画像 | ![]() | ![]() |
| 有効成分 | トルバプタン15mg/30mg | トルバプタン15mg/30mg |
| メーカー | Centaur Pharmaceuticals Pvt.Ltd.(ケンタウル・ファーマシューティカルズ) | Sun Pharma(サンファーマ) |
| 購入サイト | トルバプタンの購入はこちら | ナトライズの購入はこちら |
血糖値が上がるメカニズム
なぜ尿を出すだけの薬が血糖値に影響するのでしょうか?
一見関係なさそうに思えますが、実は体の中では複雑な連鎖反応が起きているのです。
利尿薬による血糖変動には「低カリウム血症」が関与します。
カリウムはバナナやほうれん草などに豊富に含まれる栄養素で、筋肉の動きや神経の伝達、そして重要なことに「インスリンの分泌」にも関係しています。
インスリンは血液中の糖(グルコース)を細胞内に取り込む手助けをするホルモンです。
たくさん甘いものを食べすぎた時でもこのインスリンが出ることで血糖値をコントロールしています。
しかし、利尿薬の影響によりこのインスリンの働きが弱まると、血液中の糖が細胞に取り込まれにくくなり、血糖値が上昇してしまうのです。
「チアジド系利尿薬」による高血糖の機序

結論から申しますと、チアジド系利尿薬による血糖値上昇の流れについては以下の連鎖反応が起きています。
【カリウム排出増加 → 体内カリウム低下 → インスリン分泌減少 → 血糖値上昇】
チアジド系利尿薬は腎臓の遠位尿細管(えんいにょうさいかん)に作用し、ナトリウムと水の再吸収を抑制して尿量を増やします。
この作用に伴い、カリウムの排泄も増加し、低カリウム血症を来すことがあります。
詳しい作用については当サイトメデマートの別のコラムで紹介されておりますのでご参照ください。
体内のカリウム濃度が低下すると、膵臓(すいぞう)に影響を及ぼします。
膵臓ではカリウムのポンプが有効に作動しなくなり、様々な刺激に対してインスリン分泌反応が低下します。
つまり必要な時に必要な量のインスリンが出にくくなるのです。
インスリンは血糖値を下げるホルモンですから、その分泌が減ると、自然と血糖値が上昇することになります。
さらに、チアジド系利尿薬には以下のような影響も報告されています。
- インスリンの効きを悪くする(インスリン抵抗性を高める)
- 肝臓での糖新生(新たに糖を作る反応)を増やす可能性がある
- 体の末梢組織でのグルコースの取り込みを低下させる(血液中のグルコース量が増える)
これらの作用が組み合わさることで、血糖値の上昇が起こるのです。
「ループ利尿薬」による高血糖の機序
ループ利尿薬は、腎臓のヘンレループという部分に作用して尿量を増やす薬です。
チアジド系よりも強力な利尿作用があり、むくみの強い心不全や腎不全などでよく使われます。
ループ利尿薬もチアジド系と同様に、カリウムを排出させる作用があります。
そのため、基本的には前述した機序で同様に血糖値が上昇する可能性があります。
ただし、ループ利尿薬による血糖値上昇は、チアジド系と比較すると頻度が低いとされています。
可能性はあるものの、実際に血糖値が上昇する方は限られています。
特に短期間の使用であれば、血糖値への影響はあまり心配する必要はないでしょう。
以上のように、利尿薬による血糖値上昇は、単なる偶然ではなく、体内の生理学的なメカニズムによって説明できる現象です。
とはいえ、これらの副作用が必ず起こるわけではありませんし、起こったとしても適切な対応で管理できることがほとんどです。
血糖値上昇に関する注意点

利尿薬による血糖値上昇については前述の通りですが、実際にどんな点に注意すべきなのでしょうか?
既存の糖尿病への影響
すでに糖尿病と診断されている方が利尿薬(特にチアジド系)を服用すると、血糖コントロールが難しくなる場合があります。
前章で説明したようなメカニズムでインスリンの働きが弱まるため、これまでうまくコントロールできていた血糖値が上昇してしまうケースがあります。
例えば、チアジド系利尿薬を用いた研究において、血液内のカリウムの量が0.5mEq/L低下するにつれて糖尿病のリスクが45%高まるという結果が出ています
参考元
1).Thiazide-Induced Hypokalemia May Mediate Increased Diabetes Risk
この変化は、糖尿病を管理する上で、無視できない上昇幅です。
ただし、高血圧と糖尿病を併せ持つ患者さんは多く、血圧のコントロールも非常に重要です。
だからといって利尿薬の使用を避けるべきということではなく、医師と相談しながら血糖値の変化に注意して対応することが大切です。
家族に糖尿病患者がいる場合の注意
糖尿病には遺伝的な要素があります。
両親や兄弟に糖尿病の方がいる場合、あなた自身も糖尿病になるリスクが一般の方より高いと言われています。
こうした遺伝的な背景がある方がチアジド系利尿薬を服用すると、潜在的な糖代謝の問題が浮き彫りになる可能性があります。
つまり、「もともと糖尿病になりやすい体質だったけれど、利尿薬の使用がきっかけで症状が現れた」というケースです。
このような方は、利尿薬の服用開始後、特に最初の3~6カ月間は定期的に血糖値をチェックすることをおすすめします。
糖尿病治療薬との相互作用
利尿薬と糖尿病治療薬を併用している場合、利尿薬の血糖上昇作用によって糖尿病薬の効果が著しく減弱されることがあります。
| 分類 | 商品名 |
|---|---|
| スルホニル尿素薬(SU剤) | グリメピリド(アマリール)、グリベンクラミド(オイグルコン)、グリクラジド(グリミクロン)など |
| インスリン製剤 | ノボラピッド注、ヒューマログ注、ランタス注、トレシーバ注、ライゾデグ配合注など |
これらの治療薬を使用していたら要注意です。
これらの薬を服用中に、急に血糖コントロールが悪化したと感じたら、利尿薬との関連を疑ってみる価値があります。
医師に相談し、場合によっては糖尿病治療薬の用量調整や、別タイプの降圧薬への変更を検討してもらうことも一つの選択肢です。
定期的な血糖値チェックの重要性
利尿薬を服用している方は、血圧の定期チェックだけでなく、血糖値も定期的に測定することをおすすめします。
特に次のようなタイミングでのチェックが大切です。
- 利尿薬の服用開始前(ベースラインとして)
- 服用開始後1~3カ月
- その後6カ月ごと(安定していれば年1回の健康診断でも可)
また、以下のような症状を感じたら、血糖値の上昇を疑い、早めに医師への相談が必要です。
- 異常な喉の渇き(よく口が乾く)
- 頻尿・多尿(特に夜間)
- 疲労感の増加
- 原因不明の体重減少
- 集中力の低下
定期的なチェックと早めの対応が、大きな健康問題を未然に防ぐ鍵となります。
血糖値を上げにくい利尿薬 SGLT2阻害薬

「利尿作用は必要だが、血糖値の上昇は避けたい」 そんな悩みを持つ方に注目されている薬があります。
「SGLT2阻害薬」と呼ばれる薬ですが、血糖値を上げないどころか、むしろ下げる作用を持つ新しいタイプの治療薬が登場しています。
SGLT2阻害薬の作用機序は従来の利尿薬とは全く異なります。
腎臓の近位尿細管において糖の再吸収を抑えることで、尿糖排泄量を増やします。
糖分を尿中に排出させると浸透圧の関係で一緒に水分も排出され尿量が増加します。
結果として、次のような効果が得られます。
①血糖値が下がる
②尿と一緒に余分なカロリーが排出される(体重減少効果)
③尿量が増える(軽い利尿効果)
④血圧が下がる
従来の利尿薬とは違い、SGLT2阻害薬はカリウムの排出を促進しないため、前述したような血糖上昇という副作用が起こりにくいのです。
代表的なSGLT2阻害薬
日本で使用されている主なSGLT2阻害薬は以下の通りです。
①フォシーガ(一般名:ダパグリフロジン)
2型糖尿病だけでなく、心不全や慢性腎臓病にも適応が認められている薬です。
血糖値を下げながら軽い利尿作用も得られるため、糖尿病と高血圧を両方持っている患者さんに適しています。
カリウム値への影響も少なく、血糖値上昇のリスクはほとんどありません。
用法・用量
- 1型/2型糖尿病:通常、成人では1回5mgを1日1回服用します。
- 慢性心不全/慢性腎臓病:通常、成人では1回10mgを1日1回服用します。
②ジャディアンス(一般名:エンパグリフロジン)
こちらも2型糖尿病治療薬として広く使われていますが、心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中など)のリスク低減効果も認められています。
フォシーガ同様、利尿効果を持ち併せており、血糖値への影響が少ないです。
用法・用量
- 2型糖尿病:通常、成人では1回10mgを1日1回朝食前または朝食後に服用します。
- 慢性心不全/慢性腎臓病:通常、成人では1回10mgを1日1回朝食前または朝食後に服用します。
【当サイトメデマートで扱っているジェネリック一覧】
| 商品名 | ダパカート10 | ジャディアンス |
|---|---|---|
| 画像 | ![]() | ![]() |
| 有効成分 | ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物10㎎ | エンパグリフロジン10mg/25mg |
| メーカー | CADILA(カディラ) | Boehringer Ingelheim(ベーリンガー インゲルハイム) |
| 購入サイト | ダパカート10の購入はこちら | ジャディアンスの購入はこちら |
その他のSGLT2阻害薬
ルセフィ(ルセオグリフロジン)、スーグラ(イプラグリフロジン)、デベルザ(トホグリフロジン)、カナグル(カナグリフロジン)など、他にも同種の薬が複数あります。
それぞれ微妙に特性が異なるため、あなたの状態にあった最適な薬を選択することが最も大切なことです。
SGLT2阻害薬の注意点
もちろん、SGLT2阻害薬にも注意すべき点はあります。
①性器感染症のリスク
糖分を含む尿が増えるため、性器感染症のリスクが高まります。
②脱水に注意
利尿作用があるため、十分な水分補給が必要です。
特に高齢の方や季節を問わず一年を通して注意が必要です。
③ケトアシドーシスのリスク
まれですが、血糖値があまり高くなくても糖尿病性ケトアシドーシス(血液が酸性に傾くことで吐き気・嘔吐・腹痛などが現れる)という深刻な状態になることがあります。
④低血糖の可能性
特にインスリンや他の糖尿病薬と併用する場合、低血糖に注意が必要です。
このような副作用があるため、SGLT2阻害薬が全ての人に適しているわけではありません。
とはいえ、血糖値上昇の副作用を心配する方にとって、SGLT2阻害薬は選択肢の一つとなるでしょう。
特に糖尿病を併発している高血圧患者さんにとっては、一石二鳥の薬剤と言えるかもしれません。
まとめ
一部の利尿薬、特にチアジド系では体内のカリウム低下を通じて血糖値が上昇する可能性があります。
ループ利尿薬でも同様の作用が考えられますが、頻度はずっと低いです。
既に糖尿病がある方や、糖尿病の家族歴がある方は特に注意が必要です。
しかし、このことを知って過度に不安になる必要はありません。
利尿薬による血糖値上昇は全員に起こるわけではなく、起こったとしても多くの場合は軽度です。
定期的に血糖値をチェックし、変化があれば早めに医師に相談することで適切に対応できます。
また、SGLT2阻害薬は本来は糖尿病治療薬ですが、浸透圧利尿により軽度の利尿作用と血圧低下作用もすため、選択肢の一つに挙げられます。
あなたの状態に合った薬を医師と相談しながら選ぶことが大切です。
利尿薬は高血圧や心不全などの治療に非常に重要な薬です。
副作用の可能性を正しく理解し、定期的に医師の診察を続けることで、安心して治療を続けることができます。
疑問や不安があれば、いつでも医師や薬剤師に相談してください。
出典
フルイトラン錠1mg/2mg添付文書
ラシックス錠10mg/20mg/40mg添付文書
日経メディカル(チアジドは低K血症を誘発し糖尿病のリスクを高める)
1).Thiazide-Induced Hypokalemia May Mediate Increased Diabetes Risk
フォシーガ錠5mg/10mg添付文書
ジャディアンス錠10mg/25mg添付文書
MSDマニュアル家庭版(糖尿病性ケトアシドーシス)
















